ハドソン川とイーストリバーが合流するあたり、マンハッタン最南端に Whitehall St. (ホワイトホール通り)があります。19世紀にはこの辺りはフェリー(渡し船)やwater taxi で賑わったことでしょうし、そのためのボートを作る造船所も多く存在したでしょう。
19世紀後半にこの付近で建造された手漕ぎボートはその通りの名から「Whitehall boats (Whitehalls)」と呼ばれました。その原型は1820年代(1826年とも)の英国にまで遡るそうですが、その後19世紀後半から、このボートはニューヨークやボストンの造船所で建造されるようになりました。
Wikipediaから拝借した写真だが、肝心のトランサムが写っていないのが残念
ほとんど垂直に立つステム、そこからスターンまで真っすぐに伸びるキールは、人や荷物を運ぶ手漕ぎボートに求められる保進性とスピードをもたらしたでしょうが、最も目を引く特徴はワイングラス型のトランサムと大きなスケグでしょう。細身でセクシーなカーブを描くハル形状は、なんとなく池に浮かぶ(昔の)貸しボートを思わせます。お仕事ボートとしてだけでなく、漕いで遊ぶためのボートしても人気があり「海の自転車(bicycle of the sea)」と呼ばれ、当時の最も優雅なボートの一つと見なされていたそうです。
米国最大規模を誇る海事博物館であるMystic Seaport: The Museum of America and the Sea には、Mr. Kenneth Durant により1958-1968に行われた調査に基づくWhitehall に関する多くの資料が所蔵されています。そうした歴史的資料が保存されているお陰で、現在でも米国の様々な造船所がこの Whitehall を原型とするボートを製作販売していますし、キットや設計図も入手可能です。Whitehall Style Boats のヴァリエーションは多く、伝統的工法による木造艇はもちろんのこと、中にはハルはFRPだけどスウォートなどの内装はチークで金物はブロンズといったボートもある(下に造船所へのリンクを置きましたが、基本仕様で278万円ですって)。漕ぐだけでなく、セイルを張って帆走もできるこの Whitehall、そのなかの1パイはガフリグ、バウスプリットを備えジブセイルも持っています。
Whitehall Style Boats の1パイに心惹かれる今日この頃。この船、造りたいなぁ。
もしも物事が万事順調に運んだら、名前はもちろん、Nancy Ⅱにしよ。
wikipediaのWhitehallの項
Mystic Seaportに保存されているWhitehallの資料
Mystic Seaportのショップ、Whithallsの図面
ボストンでかつて建造されたWhitehallについて
高価なWhitehall styleのディンギー