Kayak1号艇製作記

米国Chesapeak Light Craftからカヤック・キットを輸入し、製作しました。(2011/8 ~ 2011/11)

イヌとタンデム・カヤックに乗り始めて暫くして、あるカヤック・ショップで木製カヤックを自作するという本に出合いました。

  • Chris Kulczycki著 久保正夫・上田洋訳『新版 カヤック工房』舵社 2007.
    原書はChesapeake Light Craftの前オーナーが著した本で2000年に出版されています(今はKindle Editionもある)

この本を読みS&G(Stich and Glue)と言う合板とエポキシでハルを作るという工法を初めて知り、これなら自分にも作れるかもしれないと自作意欲が湧いてきました。なんと言っても乗っていたのが(イヌの玩具と同じ)ポリエチレン製カヤックでしたから。

それからS&G工法で使用するエポキシ、合板などについて調べものをはじめ、製作の際の現実的問題を真剣に考え始めたわけですが、やっぱり最初は形が欲しかったし、設計図からロフティングして木取りできるか自信がなかったのでキットから作ることにしました。米国の代表的なキットメイカーChasapeak Light Craftのサイトを眺め、そのお値段を見てたら「こんな値段で木製カヤックが作れちゃうの?」とビックリ(なにせ円が高かった時代ですから)。

さっそく木製パーツだけのキット(エポキシまで含んだフル・キットは輸入不可なので)を発注、$250以上はクレジット・カードで決済ができなかったので仕方なくバンク・トランスファーで送金。Fedexが大きな段ボールをドアまで届けてくれました。

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これが12ftのカヤック製作に必要なすべての木製パーツ。合板はジュベール社製4mm厚マリン合板(BS1088ではありませんが、Lloyd's Resisterによる認証を取得しています)で、その美しさとカットの精密さにビックリする(CNCルーターでカットしていると思われます)。感心したのは付属マニュアルの丁寧なこと。彼の地のDIY文化を思い知らされました。


エポキシなんか使うのは初体験。あらかじめ接着やらグラッシングの練習はしてみたものの、練習と本番は大違い。なによりハルを構成するパネルを眺めて、どうしてこれが船の形になるのかなんとも合点がいかない。

まず二分割されたハル・パネルを接合するわけですが、スカーフ・ジョイントではなくフィンガー・ジョイント、量産化のためでしょうが一目でキットから作ったなってバレちゃうジョイントです。でもハード・スポットは出来ないでしょうし、継ぎ目もピッタリ、設計図通りに(アラインメントが)歪まず仕上がるのは素晴らしい。

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その接着にはエポキシとファイバーグラスを使う訳ですが、初めてのエポキシ作業ゆえその仕上がりは我ながら不出来。作業時の気温でのエポキシの可使時間がよく分からなかったし、エポキシを塗り始めたら刷毛ではうまく行かず時間ばかりかかったため、ゲル化が進んでしまいファイバーグラスの浸潤が情けないことになっています。ポッタリと厚くエポキシがのり、サランラップを挿み重しを置いておいたのですが、この通りエポキシがシワシワに硬化しました。

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まぁ何事も経験、失敗して学習し徐々に上手くなると自分を慰める。

  1. ハルパネルのスティッチは、クレイドル(簡易船台)に乗せて作業をしたので比較的きちんと組みあがりました(パネルが設計図通り1mmの狂いもなくカットされているのだから当たり前か)。しかし、バウとスターンに向かって強く捻っているこのカヤック、さすがにバウの部分は思うようにスティッチ出来ず、後でかなり研磨することになりました。
    これはパネルのべベルの取り方がマニュアル通りではうまくなく、上パネルが下パネルに落ち込み重なってしまうからでした。それを防ぐためのコツは2号艇製作時に実践しました。
     
  2. 初体験のファイバー・グラッシングですが、まずハル内部(コックピット部)で練習したため、そしてマニュアルに記載されていた通り予めサチュレイション・コートをしたので、グラスが浮くこともなく意外と楽に進みました。
     
  3. とはいえ、ウェットアウト(wet out)にどのくらいの厚みのエポキシを施工したらよいのか分からず、初心者らしく大変厚いエポキシ層が出来てしまいました。更にその厚み故にエポキシ層の凸凹が激しく、その後の研磨には往生しました。「必要十分な量のエポキシで薄い浸潤を心がけること」を学んだ良い経験でした。
    グラッシングの時に余分なエポキシをスキージで拭い去ってしまうという方法を知り、実践したのは2号艇を製作した時です。
     
  4. S&G工法では、フィレッティングが構造的強度を保証するなにより重要なキモとなる作業であることをこの時は理解していませんでした。なのでフィレットの厚み、フィラーの量など適当に施工していました。

ニス塗装を施し、出来上がったカヤックを目の前にして、合板からこんなにもキュートなカーブを持った船ができちゃうことに感動でした。なにしろパネルを縫い合わせればハルの形ができちゃうわけで、S&G工法がアマチュア向けと言われる理由がよく分かりました。ストリップ・プランキングなど他にも造船方法はあるわけですが、モールドを作る必要もなくそれこそあっという間に船体が出来てしまうこの工法には驚くやら呆れるやらでした。


カヤック1号艇の製作記は別のサイトに掲載していたのですが、すでにドメインが失効してしまっているためそのPDF形式のファイルを下にアップロードしておきます。