ディンギー製作記-2(ハルの組立まで)

Contents
  • 2-0 ハルの製作に向けて
  • 2-1 フレーム固定
  • 2-2 パネルのスティッチ-1
  • 2-2 パネルのスティッチ-2
  • 2-3 チャインのフィレッティング
  • 2-4 センターボックスを撤去
  • 2-5 ハル内側のエポキシ・コート
  • 2-6 バウのスティッチ
  • 2-61 マストステップ
  • 2-7 アッパー・サイドパネルのスティッチ
  • 2-71 上部チャインのフィレッティング
  • 2-72 上部パネル内部のエポキシコート
  • 2-8 ターンオーヴァ
ハル(船殻)を組み立てていきます。船の形が見えてくる

2-0 ハルの製作に向けて(6/15)

前項でボトムパネルとダガーボードケースを接着しましたので次はボトムパネルを挟み込むセンターパネル(左右2枚)をフィレットで固定します。

センターパネルのカーブに合わせてボトムパネルにロッカーがつく訳ですが、やってみたら所々隙間が見えています。クランプで挟んだり、テープで引っ張って留めたりとその場凌ぎで固定し、木粉を少し混ぜた粘度の低いフィレットを接合部に筆(亡父が遺した油絵の具筆、こんなところで役に立つとは)で置いていきます。エポキシが硬化すればこれで固定されますので、次は正式のフィレッティングを施します。これで竜骨に相当するセンターボックスが完成しました。

2-1 フレーム固定(6/15)

さてセンターボックスにフレーム(バウのフレームA、スオートが乗るダガーボードケース直後のフレームB、スターン・バルクヘッドとなるフレームCそれにトランサム)を固定する作業に移ります。

なんと言ってもここでの精度が船の出来上がりを左右しますから、捻れていないか、フレームはセンターボックスに直交しているか、フレームは水平を保っているかなどチェック箇所は沢山。念のため船台とフレームを角材で固定しておきました(自作先輩Nさんがやってらっしゃるのを拝見し、こうしなきゃと教えられました)。


直角治具とフレームを使いまずはドライフィッティングしてみてから、接合部をエポキシ(木粉を混ぜた薄いフィレット)で仮接着します。

ここまで来るともう修正はできませんから、あちこちチェックし、バウ先端からフレーム端までの距離を測定したりしてアラインメントに細心の注意を払いますが、それでもミリ単位のズレは出ています、残念。図面起こしでの誤差、カットの誤差、組立誤差と船に歪みを生じさせるエラーは沢山ありますし合板自体も波打っているから、木造艇って多かれ少なかれ歪んでしまうんだろうなと自分を納得させる。

フィレットで正式に接着する前に一応マスキングをしておきますが、まぁこれで少しは後々のサンディングを楽になるのを期待してのことです。フィレッティングは随分久しぶりの作業、木粉にシリカシックナー(アエロジル)を混ぜたフィラーをエポキシに混ぜてピーナッツバター程度の粘度を持つフィレットを作り接合部に盛っていきますが、これは正に溶接作業と同じですね。

たっぷり盛ったフィレットを一息で(後でリタッチしようとしても汚くなるだけ)整形していきますが、使うのはこんな木製コテ(?)です。エッジが立っていないと綺麗な形に整形できませんし、はみ出た(あるいはポタッと落とした)エポキシを綺麗にこそげ取るのにもエッジが必要です。もちろん施工するフィレットの厚み(アール、半径)に応じて何種類かを作っておきますが、一度使ったらエポキシを研磨しなきゃいけないため、使っている内に段々短くなっちゃう。

さて、これが船の構造全体像です。やっと船の形が見えてきましたが、比較的新しい設計のためでしょうか細身でクラシックな形状ではありません。作業のために工房内を動き回るのにギリギリ。はたしてこの幅の船をドアから出せるのか?無理です。ドア左の壁を壊す必要があります。

エポキシによるフィレッティングを多用したため(設計図には多くの箇所で補強材の使用が指示されていますが、今回はその多くをフィレットで代用しています)、ビスもクギも使用したのはダガーボードケースとボトムパネルの接着のみです。

船の構造が出来上がったので、次は3枚ずつのパネルをスティッチしていく作業になります。せっかくなので一番下の左側パネルだけ置いてみました。

2-2 パネルのスティッチ-1(8/16)

前回から随分時間が経ちましたが、その間ちょこちょこと作業を進めていました。いよいよハル・パネルのスティッチに入ります。

まずはセンターボックスに接するボトムパネルから。接する角度は水平に近いので45度のベベルカットを施してからこの結構幅のあるパネルをセンターボックスにスティッチしていきます。一番幅広のフレームBを基準とし(パネルにはフレーム位置が記してあります)バウそしてスターンへスティッチを進めていきますが、幸いどのフレーム位置もスターン・トランサムも設計図通りピッタリと合いました。

しかしながら(というか当然の成り行きというか)一部でセンターボックスとの隙間が空いてしまいます。結構幅広のパネルを若干とはいえ内側に撓めて合わせなければいけません。それでこんな治具を作って無理矢理両サイドから内側に絞り込みます。

この写真はバウからハルの底を写したものですが、両サイドからボトムパネルを内側にギリギリと引き寄せクランプしているのが分かるでしょうか。これでなんとか隙間を小さくすることが出来ましたが、やはり6mm合板を捻り曲げるのは大変ですね。カヤック製作の時の3mmあるいは4mm合板とは訳が違います。

スターン部のアップですが、合板二枚重ねのトランサムとの接合部はこのように木口が出ないようにしました。バウ部分はスティッチせずにおきます。これは設計者による製作注意書に記載されているとおりです。

2-2 パネルのスティッチ-2(8/16)

次は下サイドパネル(lower side panels)をスティッチします。
サイドパネル下側は45度のベベル、上サイドパネルと接合する上側は僅かなベベルを取りスティッチ前に接合具合を確認してみます。パーツを切り出したときに注意してラインを取ったつもりですが、いざパネル同士を合わせてみるとどうしてもピッタリ合わない箇所ができてしまいます。どこかにタイトスポット(パネル凸部がきつく接している箇所)があるとその両端でパネル同士に隙間ができてしまう。そんな時はカンナあるいはサンドペーパーで出っ張った箇所をスムースなラインに修正します。

パネルをフレームに密着させ滑らかなカーブが出ていないといけないのでこんな治具で固定しながらパネル同士の接合具合を調整し、スティッチしていきます。
 

これで残すパネルは上サイドパネル(upper side panels)のみとなりました。この後チャインはエポキシ・フィレットで補強することになりますが、ここでチャイン部の仮接着(tack welding)を施しておきます。

それに当たってはハルの歪みチェックのためにあちこち寸法を測りハルが歪んでいないこと、フレームが所定位置にきていることを確認します。パネルにはベベルを取っているためパネル同士の接合部が数ミリ斜めに開いています(パネルに隙間があるわけではありません)が、これはエポキシが入り込む隙間が必要なためで、ここに粘度の高いエポキシを押し込みパネル同士を接着します。この後スティッチした銅線を抜き取り、その後フィレッティングします。

左写真はスティッチ箇所を固定するための木製治具ですが、これを捻り動かしてやるとパネルが上手い具合にズレて密着してくれる。でも木ではなく固いプラ製の方が望ましい、木だと接着しちゃうから。

仮接着の済んだハルの様子です(スターンからバウまで全景が入りません)。サイドパネルがついてみると想像より幅広、''Fat Girl''といったところでしょうか....クラシックな船ではありませんからね...壁を壊しても工房から出せるか心配....

パネルのスティッチをやって改めて感じたのは6mm合板はさすがにヤワじゃないということですね。パネル形状が設計図通りになっていないと隙間が空いてしまう。極力隙間を無くすように頑張るのですが、そこは頼りになるエポキシ!設計者Paul FisherのS&G製作冊子によれば''3mmから4mmの隙間はno problem''とか。さすがに4mmもの隙間はありませんが、どうしても2mmほどの隙間が生じた箇所があります。''問題なし''と言うことにしましょう。

2-3 チャインのフィレッティング

ボトムパネル、ロゥアー・サイドパネルの仮接着が済んだのでいよいよ銅線を撤去してみます。

panel_2_07.jpg

カヤック製作時の経験から「銅線切ったらバキッと言う音と共にパネルがずれちゃう」なんてことはないと分かってはいても、なかなか度胸がいります。これがスティッチ銅線撤去後の写真。

あとアッパー・サイドパネルのスティッチが残っていますが、ここでハタと気づく-上のパネルつけたらハルの中心まで手が届かない・・・設計図によればパネル接合部は銅線を抜かず(抜くためには仮接着しておかなければならない)ファイバーグラス・テープで補強することとなっています。しかし、センターボックスとボトムパネルとの接着補強に補強材を使わずエポキシ・フィレットで代用したこともあり、この部分にフィレッティングを施す必要があります。またチャインの補強もファイバーグラス・テープだけではちょっと不安なので、各接合部にはエポキシ・フィレッティングを施すことにします。が、船の真中まで体を伸ばして施工するのはちと難儀、そこで今のうちにフィレッティング作業をしておきます。

構造的強度補強のためのエポキシ・フィレッティングはS&Gでは核心となる工法ですが、そのサイズ(半径、厚み)に関して原則というものはあるのだろうか?恐らく''The Gougeon Brothers on Boat Construction''がその拠り所となっていると思われ、そこには施工すべきフィレット円弧の半径が記されており、それはもちろん板厚に依存しています(この半径は接着後破壊実験で求められたものでしょう)。今回のケースでは''板厚6mmゆえに半径22mm''と言うことになります。

設計図にある指示には「厚めのフィレットを施す」とありますが、どの位厚く?カヤックを造ったとき出来るだけ薄いフィレットを施工したものでそれはカヤックにはデッキがありモノコック構造となるからですが、今回のディンギーはオープンデッキしかも外装のファイバーグラッシング無しですから構造的フィレッティングの強度には無関心ではいられません。

そこで参考にしたのが設計者Paul Fisher著''Stitch & Tape Boat Construction''(2009)(www.selway-fisher.comから入手可 薄手の冊子ですが大変有用 ただし£26)です。そこのChapter 8, ''Stitch and Tape Seams & Epoxy Filleting etc in Place''にはっきり記載がありました。板厚とフィレット半径およびフィレット厚についての表です。板厚6mmだと半径は18mm~25mm、フィレット厚は板厚の1.5倍とされています。9mm厚になる半径20mm前後のフィレットか・・・ウーン、前に作ったフィレット押しつけ治具ではちょっとサイズが足りない。センターボックスのエポキシコートしていない部分は後のフィレッティングのため25mm幅で素地のままにしてあったのです。

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新たに作った大きなサイズの半径の治具でセンターボックスとボトムパネルとの接合部ならびにセンターボックスとトランサムとの接合部にフィレットを施しました。チャイン部は前述の通りファイバーグラス・テープで補強する前の薄いフィレットで済ませました。やってみると結構なエポキシ量、この作業だけで1114gのエポキシを混合しました(使用したのはその9割かな)。

予め生のエポキシを接合面に塗りその後フィレットを小さい方の治具で強く押し込み、さらにもう一度大きい治具で所定のフィレットを整形しました。写真はトラサム部の''厚い''フォレットです。

この時期工房の湿度が作業に適さない高さです。Fisherの本にはエポキシ作業は湿度65%以下で行えとあります・・・一晩除湿器をかけっぱなしにしてから作業を行いました・・・使った硬化剤はもちろん#3 Slowです。

panel_2_09.jpg

さて、チャイン部だけはファイバーグラス・テープ(50mm)で補強しておきます。どうせハル内部はエポキシ・コートするからとマスキングを省略したのでちょっと合板が汚くなりましたね。浸潤に必要十分なだけエポキシを使用したので表面はまだこのように織目模様がはっきり見えます。ハル内側をエポキシ・コートするときにフィルコートすることにします。

ハル内側のフィレッティングが終わったのでハル外側を見てみると写真のようにうまい具合にパネル同士に隙間が空いています。ハルが出来上がったらひっくり返し、ここをフィレットで埋めファイバーグラス・テープで補強することになります。

2-4 センターボックスを撤去(8/26)

フレームとパネルとの接合部をフィレットで補強しましたので、これでハルの構造自体は出来上がり。そこで当初からの懸案であったセンターボックスを撤去することにします。

180mm幅、330mm高さで船の中央に走るセンターボックスはこの船の特徴であり、建造途中の船の歪みなどを随分と軽減してくれ、まさにアマチュア向けの設計といえるでしょう。しかし、やっぱり余りに邪魔、思い切って撤去することにします。竜骨に相当する(?)この部分は厚いフィレットで補強してありますので強度的には問題なかろう。というわけでスオートの乗る部分を残して思い切って手ノコで切り始めました。

ボトム部分、ロッカーのついた箇所は何で切ろうか?ずっと以前にノコの届かない細かな部分の造作のためにアマゾン(Amazon.com)でセールの時に買っておいた''Multi Master''という工具の登場です。これ「無くても不自由はしないがあれば時々便利」という工具でなにしろ回転刃物ではないので極めて安全。

フィレットに沿って12mmあまりのところをあっという間に切ることができました。広々したコックピットが見えてきました。

2-5 ハル内側のエポキシ・コート(9/3)

早くアッパー・サイドパネルのスティッチに移りたいのですが、その前にハル内側のエポキシ・コートをしておかないとハルが完成してからでは十分に手が届かない。上半身を曲げ手を一杯に伸ばしてサンディングするのは相当辛いものがありますから・・・

と言うわけで、ハル内部(合板パネル、フレーム、フィレット)を''sanding, sanding and sanding''・・・フィラーには木粉とエアロジルを使用しマイクロ・バルーンを添加していないためそう軽々とサンディングは出来ません。なにか電動工具が欲しくなるけれど・・・

上の写真ではフレームがエポキシ・コートされていますが、これは予め防湿のためにコートしておいた非常に薄いエポキシ膜です。用いた道具(と言うほどじゃない)は写真のスポンジ製研磨用ブロックと何種類かのフィレット研磨用円柱。これらは塩ビ管に厚紙を巻いたものでそれにサンドペーパーを貼りつけて使います。それにスクレーパー(BAHCO製、三角と円形の刃を使用)です。フレームは真っ平らな板ですが、パネルもフィレットも曲がっているわけでサンディング・ブロックが多少ダレテくれたほうが使いやすい。

下の写真は全体のサンディングが済んだところですが、まだ所々テカった場所(shiny spots)がありますね。これらが無くなるまでサンドすると結構フィレットが薄くなってしまう恐れがあるため、この位はエポキシで埋まるかな?と期待する箇所もあります。残したセンターボックス後部の切り欠き、ここにスウォート下部補強材がはまります。

sand_epoxy_03.jpg

次は防水と塗装下地を兼ねたエポキシ・コートです。パネル合板にはまず低粘度エポキシであるクリア・コート・エポキシ(先述)で薄いエポキシ塗膜を作ってから、毛羽立ちをサンディングしてもう一度エポキシをコートします。

エポキシによる防水コートは気をつけないと厚く重いエポキシ層が出来てしまい、その表面はウネウネの仕上がりとなってしまいます。そこでハケでエポキシを(薄く)全体に伸ばしたらシリコン板で浮いているエポキシをスキージしてしまいますが、すべてのエポキシが除去されたりはせず、非常に薄いエポキシ膜が残り防水及び下地としては十分と考えます。今回ハル内側全体(バウ部分とアッパー・サイドパネルは除く)のコートのために攪拌したエポキシは200g、しかしその多くをスキージしてしまうので、作業後に拭い取ったエポキシ(白濁しています)を計量してみたら40%に達しました。一回のコートで120gですからもう一度コートを重ねても240g、これならペイント塗るのとそれほど変わらないのではないかな。この後もう一度軽く研磨し、埋まっていない凹部をリタッチしたらもう一度エポキシ・コートをします。

2-6 バウのスティッチ(2016/5/8 5/15追記)

作業再開です。前回のポストが昨年9月ですからねぇ、全く手つかずというわけではなかったのですが、ここにまとめるほど作業が進展していなかったもので。

さて、「各パネルのバウはスティッチせずにおき、最後にシェイプを整えながら作業しろ」と製作指示書に書かれています。その通りバウはスティッチせずに来たのですが、次は最後の上部サイドパネルをスティッチすることになりますが、バウ・パネル7枚をいっぺんにスティッチするのは大変そうです。そこで上部サイドパネルを付ける前にほかの5枚(ボトムパネル+二段のサイドパネル4枚)のバウをスティッチします。

難物は下段サイドパネル。短い距離で捻り曲げる必要があります。中段サイドパネルに関しては製作指示書に「チャインから30mm、先端から100mmの所に穴を開けロープを通し、内側へ寄せろ」とあります(先端部をクランプなどで無理に寄せたりしたら折れてしまいますから)。フーン、ちょっと厄介な箇所なのですね。湿度の低い冬を越した合板、すっかり乾燥していますから端に無理な力をかけると折れてしまう恐れあり。お湯で湿らせて作業しました。

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下段サイドパネルをスティッチしている様子ですが、何をやっているのか自分でもよく分からない。とにかく手持ちのクランプでパネルをギュッと内側に寄せようとしているところです。クランプが動いてしまわないように後ろから引っ張っています。

設計図にはこの下段サイドパネルは大きめにカットしておき、現場合わせでカーブを作れとあるので数ミリですが大きめにしておきました。下段パネルをスティッチして中段サイドパネルをスティッチしてみたらバウ先端が合いません。スティッチのやり直し、下段サイドパネルを外し少し削りバウ先端がスムースなラインを描くようにしました。

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これより難しかったのは中段サイドパネルです。さすがに6mmマリン合板を曲げるのは簡単には行きません。クサビをクランプに噛ませたり、平行でなくとも留まるウッドクランプを使ったり、とにかく手持ちの道具でなんとかパネルを合わせました。素直に製作指示書通りパネルに穴を開けて内側へ寄せた方が簡単だったかも知れません。

とまぁ難儀しながらもバウ・シェイプが現れて、いかにも船に見えてきました。

bow_07.jpg

チャインにタックウェルディング(エポキシによるちょん付け)を施してから銅線を撤去し、チャインをフィレッティング、ファイバーグラスによる補強をしておきます。バウ先端はさらなる補強が必要ですが、それは上部サイドパネルを付けてからにします。

(5/15 追記)
フィレッティングを施したバウ・チャイン部にファイバーグラスによる補強をしました。さらに写真に見えるボトムパネル先端(三角形の部分)にはマストステップが付きますので、もう一枚マリン合板を張り、すぐ脇のチャインごと厚いフィレットを施工しました。バウラインにもファイバーグラスを張ってありますが、ここは上部サイドパネルをスティッチした後さらに厚いフィレットによる補強をする予定。

2-61 マストステップ(5/15)

この船のリグはバランスト・ラグ・リグ(balanced lug rig)、マストはマストホールとマストステップで支持されるだけでステーはありません(ツバメ号だってハリヤードがフォアステイになっていたのに)。バウのスティッチを行っているこの時期にマストステップを作りつけておきます。

マスト下部をはめ込む38mm x 38mm角のマストステップを製作しますが、使用したのはオーストラリアン・サイプレスです。平板をリッピングして厚みと幅をルーターで揃えました。防水加工を施したのちボトムパネル先端に接着します。

2-7 アッパー・サイドパネルのスティッチ(5/19)

ハルを形作る7枚のパネル、最後の上部サイドパネルをスティッチします。バウのカーブはそれほどきつくはないものの、一番長く幅もあるパネルです。スターンを基準にスティッチしていきますが、まずは両側パネルを当ててみて各クレーム位置に収まるかどうか、バウはキチンと合うかどうかを確認してみます。幸い大きな問題はなさそう。

さすがに長いパネルですので先端を何かでサポートしておかないといけません。助手に先っぽを持ってもらい内側に寄せながらスティッチしていきたいところですが、生憎今日は一人で作業中。下のパネルとの平行を取りながらキッチリパネル同士が合うように、押したり捻ったり、スクレーパーを隙間に差し込んで無理やりパネル同士をくっ付けたりと結構な手間です。

バウに向かい下のパネルとの角度がなくなっていくため、スティッチするとき写真に見えているジグ(丸棒)を挟んでいますが、このうちいくつかは上パネルが下パネルに重ならないよう金属片を接合部に挿んであります。

微妙なカーブを描くパネル同士をぴったり合わせるというのは難物ですが、パネルを内側に押したり外側に捻ったりするとうまい具合にパネル同士がフィットすることがあります。スティッチしようとするその先を仮止めし、すかさず目的の個所を銅線でギリギリ絞めてやります。それでもフレーム付近は数ミリの隙間が出来てしまったところもあり、そこはエポキシに頼ります。

バウ先端部は「スムースなカーブを描くようスティッチする際に必要なら削れ」と製作指示書に書かれていました。確かに1mmほど削る必要があり、さらに左右パネルを接合する邪魔になる内側をべベル・カットする必要がありました。その船首部にはまずフィレットを盛り、次にグラスによる補強を施しておきます。これだけではちょっと不安なのでスティッチ作業終了後に厚いビードでさらに補強するつもりです(カヤックを作った時には、船を縦にして船首にエポキシを厚み5cmほど流し込みました)。

さて上部サイドパネルがついてやっとハル形状が見えてきました。うーん、''Fat Girl''といったところでしょうか。フリーボードが高い船を選んだのですが、こうして見ると''太いな''というのが正直な感想で、壁を壊しても搬出可能か不安になってきました(寸法上は出るはずなのですが)。顔を近づけてカーブを見てみると特にバンプもなく、なかなか優雅なラインを描いていて嬉しくなります。スティッチ中にフレーム付近でラインが波打つのではないか、それを防ぐためにスパニッシュ・クランプ(引き寄せるのではなく押し広げるクランプ)で形状を保持する必要があるかと思い自作しておいたのですが、6mm合板は綺麗に曲がってくれました。

懸念が一つ。ミッドパネルとアッパーパネルとはバウ付近では角度なく接合されています。ゆえにフィレッティングが機能を果たさず、グラスによる補強を施しても強度的に問題があるかも知れません。もちろん接着自体に問題はないでしょうが、ガンネルを押してみると容易に撓んでしまいますから、これをスティッフにするため何か補強材を付けようかどうか思案しています。ご助言がありましたらよろしくお願いいたします。

ハル形状が出来上がったので内部のエポキシ防水処理を施したらいよいよターンオーバーです。船底チャインのグラステープによる補強とエポキシによる防水処理と塗装が済んだら、もう一度ひっくり返します。英国の木造艇雑誌(Water Craft)の記事に船大工へのアンケートが載っていて、それによると一番楽しいのはハルの製作、なによりどんどん作業結果が目に見えるからですって。まったくその通りで、特にS&G工法ではパネルさえスティッチ出来れば船の形が出現しますからストリップ・プランキングなどとは比較にならない。でもこれからはハル内側の様々な造作作業が待っています。

2-71 上部チャインのフィレッティング(5/25)

上部サイドパネルをエポキシで仮留めしましたので、銅線を撤去しチャインにフィレッティングを施します。といってもバウ先端部は銅線を抜く勇気がなく、5本の針金はそのままです。まずはフィレット箇所にマスキング、これをやっておかないとフィレットが汚くなりその後のファイバーグラス・テープに響きます。

upperchain_01.jpg

前回作業から72時間以上経過しているため、チャイン部のエポキシとその両脇を軽く研磨し荒らしておき、さらに生のエポキシを絵筆で塗っておきます。上部チャイン全周とフレーム部のフィレッティングに要したエポキシは約600g、意外と多量ではありませんがそれというのもチャインの角度が180度に近く厚いフィレットが施工できないからです。90度の接合角度を持つパネルとフレームでは、フィレットをバッグに入れて絞り出すのですが、ここではまずヘラでフィレットを押し付けたのちシリコン板でそっと(フィレットを沢山こそげ取らないように)成形しました。

補強用ファイバーグラス・テープはここだけ75mm幅を使用しました。フィレットが硬化する前にテープを置いていくとじわじわとエポキシが浸透していきます。浸潤に必要な生のエポキシを刷毛で追加してやり、浮いたり垂れているエポキシはシリコン板でぬぐい取ってしまいます。混合したエポキシは約200gでした。

写真を見ても若干エポキシが浮いて下に垂れています。接合角度が浅いためあまり強く扱けませんでした。後で研磨の手間が増えますが、まぁ仕方ない。

さらにバウ接合部をもう一度ファイバーグラスで補強し、今日の作業は終了です。次は上部サイドパネルとチャイン部を研磨し、エポキシによる(薄い)防水・下地処理をします。それが終わったら狭い工房の中でターンオーバーが待っていますが、ウーン、天井から電動ホイストが欲しい・・・

2-72 上部パネル内側のエポキシコート(6/1)

上部サイドパネルおよびバウの部分を防水処理と塗装下地処理のためエポキシで薄いコートをします。使用したのは他のサイドパネルと同様クリアコート・エポキシです。厚いコートにならないよう、また後の研磨作業が楽なように垂れやウネができないよう注意しつつ刷毛でエポキシを塗布し、その後スキージしてエポキシを拭い去ってしまいます。こうしてもエポキシ薄膜が残りますので、この段階での目的には十分と思います。

最初のコートでは合板がけば立ちますので硬化後軽く研磨しさらにコート、これを三回繰り返しました。すでに室温は25℃に達しているため、拭い去ったエポキシが紙コップの中でヒートアップしました。三回のコートで使用したエポキシは合計227gでした。

upperchain_06.jpg

上部チャインをファイバーグラスで補強するのに今回は75mm幅のグラステープを使用しましたが、50mm幅のものに比べると端の始末がしっかりしています(厚みは0.23mmで同じなのですが)。ハル・ボトムのチャイン補強には75mm幅を使用するようとの指定があるため、この端の厚みがボトム塗装に響いてしまうでしょう。今回も端をかなりサンダーで研磨しなければならず、ボトムに施工する際には予め少し合板を研磨して凹みを作っておくなどの処理が必要になりそうです。大きな船で厚くファイバーグラスを重ねる場合などはトリマーやルーターでグラステープやカーボンファイバー・テープの幅だけ彫り込んでおくということをしますが、まぁ紙ヤスリで何とかなるかな。

2-8 ターンオーヴァ(6/5)

我がアマゾン号(仮称)の寸法は以下の通り

  •  全長:11'(3.36m)
  •  全幅:5'2''(1.57m)

図面上でサイズを理解していたものの、いざハル(船殻)が出来上がり塊が現れてみるとその大きさにビビる。船底のエポキシ補強などを行うため船をひっくり返し伏せた状態にする必要がある。カヤックなら一人で何とかできたけれど、(恐らく)40kg近いハルしかも太めを一人でターンオーヴァするのは無理かもと心配していたら、船仲間のJollyhotさんから「手伝いに行きますよ」との有難いお申し出。当日はご友人のTさんにもいらしていただきました。

三人がかりでひっくり返し、仮船台の上に乗せました。アマゾン号最初の乗船者となったのはJollyhotさんの愛犬リルちゃん。

turnover_01.jpg

自分でも船底をしげしげ見たのはこれが初めてのこと、パネルの接合具合やらチャインラインの凸凹やらをチェックしてみると、パネルに記したフレームラインは3枚のパネルでそれぞれ1mmから2mmはズレていました。3360mmの全長でミリ単位のズレだからまぁ合格点かなと自分を慰める。

JollyhotさんとTさんのお陰で次の作業に進めます。これからパネル接合部にエポキシを埋め、アール(R)を付けファイバーグラスで補強します。さらにスケグ、キールランナーなどの補強材を取り付けたら、船底塗装までやってしまう予定です。

製作記ー2はここまでとし、ページを改めます。