The Epoxy Bookからの覚書

Syetem Three刊行The Epoxy Bookからの覚書

以下は"The Epoxy Book"を参考にエポキシ作業の覚書としてまとめたもので、エポキシ作業を行おうとする際の覚書-基礎編です。''System Three''社の「The Epoxy Book」は、エポキシ・レジン製品とその使用法について記載していますが木造艇製作についての冊子ではありません [The Epoxy Book 2006:1]。構成、順序および訳は筆者の独断によるものです。また本文中の括弧書きは筆者によるものです。
 こうした智恵、コツと言ったものは職人さんが何年にもわたる経験から習得するものでしょうが、その時間がない素人としては知識として知っておく必要があると思われます。もっとも、実際にやってみて初めて分かることも多いのでしょう、「The Epoxy Book」の1ページ目に明確に書かれています。

使ってみることが、エポキシ・レジン製品について学ぶ最良の方法である [The Epoxy Book 2006:1]

安全と取り扱い [The Epoxy Book 2006:2] 


※健康へのリスク
  • 完璧な安全性を備えたエポキシ・レジン・システムを作ることは不可能である(エポキシ・レジン製造には顕著な環境ホルモンの一つであるビスフェノールAが使用されています。硬化したエポキシからビスフェノールAが溶け出すことはないと考えられているそうですが、微細チップにされゴミとして排出されると、それらが集積する海岸ではビスフェノールAが通常環境よりも高濃度で検出されるという記事をみたことがあります)。
  • エポキシ・システムを扱う際に懸念される危険性の一番目には皮膚への刺激作用が挙げられるが、繰り返し長期にわたって刺激されることにより皮膚がエポキシの接触に過敏になる(sensitization)こともあり得る。普通は前腕の内側、眉毛の上の額に発疹が現れる(幸い私はまだアレルギー反応を発症してはいませんが、ある閾値を超えると起こりうるかも知れません)。
  • エポキシ・レジンはほとんど臭気を感じませんが、硬化剤(アミン類)には独特の臭み(藁に染みたウサギの尿と言われますが、そんなもの嗅いだことはない)があります。作業に当たっては''防毒マスク''の着用が必須と思われます。
※可燃性
  • システム・スリー社のエポキシ・レジンおよび硬化剤の可燃性リスクは低い。とありますが、航空機への積み込みは許可さえていません。故に塗料と同じで、廉価ゆえ海外の通販から購入しようとしても(郵送であれクーリエ・サービスであれ)日本への配送は出来ませんと拒否されます
※道具についたとき
  • 安全性を確保するための要は、エポキシが接着箇所以外や工具などに付着しないようキレイに仕事をすることである。また「使い捨てモード」を心がけなさい。刷毛を溶剤で洗浄しようとせず使用済みの刷毛は捨てること。工具(例えばナイフ)についたエポキシは、ペーパータオルで拭き、エポキシが硬化してから研磨してきれいにする。硬化したエポキシはポリエチレン、ワックスペーパー、ラップには接着しない。
  • 有機溶剤を使わずに工具(刷毛など)についたエポキシを除去するのに「酢(vinegar)」で洗うと良いという記述がありました。確かに溶剤を使うより健康に害が少ない。ただしラバーは酢に浸すときに外しておかないといけないそうです。洗浄に「酢」を使うと言うのは確かに効果的です(一番安いミツカン穀物酢しか試したことはない)。有機溶剤を使うよりはるかに健康的、お勧めです。刷毛についたエポキシを良くしごき、酢を入れたガラス瓶などで洗い、さらに水洗いすることを繰り返せば刷毛は再利用が出来ます。金属製工具(ナイフとか)も酢を浸ませたペーパータオルで拭けばキレイにすることができます。

 

※皮膚についたとき
  • (エポキシ・レジンが皮膚に付着しないよう)使い捨て手袋をはめるか、皮膚を保護するクリームを塗りなさい。もし付着したときにはエポキシを拭き取ろうと(アセトンなどの)溶剤を使ってはならない。溶剤はエポキシより有害である。皮膚について硬化する前のエポキシもペーパータオルに酢を垂らして拭くとぬぐい取れます、多少べたつきますが。
  • ファイバーグラスの研磨作業で皮膚にダストがつくと、グラスファイバーのせいで皮膚にかゆみが生じることがあるが、冷たいシャワーを浴びてファイバーを体から洗い流すこと。かゆみは普通24時間すれば消えてしまう。
  • 皮膚に着いたエポキシをとるには、ハンドソープ(無水石鹸、waterless handsoap)と沢山のペーパータオルを用い、石鹸で失われた皮膚の脂を補うために良質のスキン・クリームを塗っておくこと。半ば固まってガム状になったエポキシは、そのまま皮膚の上で硬化させ、翌日剥がし取りなさい。
※作業着
  • 手袋、刷毛、ローラーは使い捨てができるがあなたの健康はそうはいかない。手袋や防塵マスクは(木造艇製作にかかる)コストの一部である。研磨など(エポキシ)粉塵がでる作業の時には、肺まで粉塵を吸い込まないようにいつも必ず防塵マスクをつけること。

エポキシの化学的性質  [The Epoxy Book 2006:3-4]


※硬化と温度
  • エポキシの硬化反応は発熱反応であり、硬化するときに熱を発生する。硬化率は硬化するときの温度に依存し、暖かいほど速く硬化する。硬化率は概ね温度が10℃変化すると半分あるいは倍になる。例を挙げると、温度が21℃の時、タックフリー(触ってもべたつかなくなくなるまでの時間)が3時間ならば、31℃の場合は1.5時間になり、11℃の場合は6時間になる。反応速度に関することはすべてこの一般則に従う。
  • ゲルタイムとはレジンが固まりはじめるまでにかかる時間で、ある量のレジンと硬化剤混合物の初期温度に依存し上記一般則に従う。100gのSiverTip Laminating Epoxyと速い硬化剤ならば、25℃で25分である。15.6℃ならばゲルタイムは50分に延びる。しかし、同量の混合物を4平方フィート(60cm四方)に広げた場合、25℃でのゲルタイムは3時間を少し超えるだろう。このように、硬化時間は温度に敏感であると同時に、混合物の表面積(ある量がどれほどの面積に広げられるか)にも敏感である。従って、実際にエポキシを使用していると次のようなことが生じるのである。反応が進むにつれて熱が発する。薄いフィルムにエポキシを塗り広げ、発生した熱が周囲に拡散していくと、硬化中のレジンは温度が上昇せず一定の速度で反応が進む。レジンを混合容器の中に入れたままだと、発熱反応により混合物の温度は上昇し硬化反応を加速させることになる(そのため混合容器のなかでブクブクと沸騰することもある)。
  • ワーキングタイム(作業可能時間)は、混合容器の形状で決まるゲルタイムの約75%である。この時間は、表面積を増やす、少量を混合する、混合前にレジンと硬化剤の温度を下げるなどの方法で延ばすことができる。経験豊富なユーザーは、すぐに使い切る量を何回かに分けて混合したり、化学反応を遅くするために拡げ表面積を広くする。
  • 常温で24時間後には、エポキシは最終強度の60%から80%に達する。その後も数週間かけて硬化はゆっくり進み、特別に温度を上げなくとも、それ以上の硬化が起きないところまで最終的に硬化する。しかしながら、たいていの使用目的においては、レジンが硬化する室温である25℃で72時間後には十分に硬化すると考えて良い(ので研磨可能となる)。
  • 最新版には製品のゲルタイムについての記述がありませんので、2002年版日本語訳のAppendixよりその一部を引用させていただきます。システムスリーエポキシに#2硬化剤を用いた場合の各温度におけるゲルタイムおよびワーキングタイム(ゲルタイムの75%)です。温度以外の条件については不明です。
温度(セ氏) ゲルタイム(分) ワーキングタイム(分)
16 69 52
21 44 33
25 30 23
29 24 18
32 20 15

 

※アミンブラッシュ
  • エポキシ・システム(製品)によっては、硬化中に表面に膜が形成されることがある。専門用語でこの表面の膜はアミン・カーボネイトと言う。二酸化炭素と水蒸気があると形成されることがあり、暖かくカラッとした日よりも寒く湿っぽい日にできることが多い。ブラッシュ(アミン・ブラッシュ)としばしば呼ばれるこの膜は水溶性であり、サンディングや塗装の前にスポンジと温水(他の本では石鹸水)で除去する必要がある。私はこれを経験したことはありませんし、アミン・ブラッシュが出来ないことを売りにしている製品もある。
※エポキシと紫外線
  • エポキシは、保護膜がないと太陽光に対して完璧な耐久性があるとは言えない。太陽光の直射に半年ほどさらされると、エポキシに悪影響が出始める。さらに太陽光にさらされ続けると白化や黄変を引き起こし、最終的にはエポキシは分解してしまい、(化学結合による)メカニズムの特性は失われてしまう。この問題を解決するには、紫外線保護材を含む塗料やニスでエポキシを保護することである。

計量と混合 [The Epoxy Book:4-5]

※計量方法
  • エポキシの計量、混合作業は我が社のエポキシ・システムでは容易なことで、それは容積比(重量比ではない)2対1もしくは(製品により)1対1で混合すればよいからだ(とは言え、少量を正確に計量するのはなかなか難しい)。
  • 正確に計量できるテクニックを考えておき、その方法を変えないこと。いつも同じ方法で計量すればミスを最小限にできる
  • 目盛りつきカップや(口が広がっていない)垂直な容器を使う時には、いつも同じ計量方法を習慣にしなさい。レジン(樹脂)を最初に入れるならば常にレジンを最初に入れる。硬化剤を入れる前に容器内のレジンの量を確認し、その2分の1量の硬化剤を入れ総量が正確に印を付けたところまでになるようにする。
  • 2対1の印を付けたかき混ぜ棒を容器に垂直に立てて計量することもできるが、この方法はサイドが垂直な(口が広がっていない)容器に限り可能で、サイドが斜めの容器では使えない。
  • (計量に正確なデジタル秤も使えるが)容積比と重量比を間違えてはいけない。容量比2対1は重量比''100対43''((The Exopy Bookによる。Technical Data Sheetには100対''44''とある。比重はレジンが1.10、硬化剤が0.95~0.97なので''43.6''と計算される))と等価である(この点で重量比100対50のコニシボンドE206は使いやすいと言えます、電卓が要らないから)。
※混合方法
  • レジンと硬化剤を正確に計量したら十分に混合する。よくかき混ぜ、容器内壁に付着したエポキシを掻きおとし、底から上へよく混ぜる。量、容器の形状、温度、粘度にもよるが、15秒から1分はかき混ぜる(粘度の高い液体を混合するのは結構時間がかかりますし、粘度が高いほど空気ー泡が入りやすい。私はタイマーをかけて最低でも3分間、5分間はかき混ぜています)。
  • 一度に多量な混合はできるだけ避けること(混合不良が起きやすいし温度が高ければ硬化が速く進みすぎるから)。一度に36オンス(約1リットル)を混合するより、12オンス(容積だから30mlx12=360ml)に分けて3回混合するべきだ。