エポキシ作業の実際ー1

CONTENTS

  1. 安全性の確保
    ・健康への配慮
    ・後始末
  2. 道具と材料
    ・接着するもの/しないもの
    ・計量と混合
    ・フィラー(シックナー)
  3. 研磨
【安全性の確保】【道具と材料】【研磨】

エポキシを使って作業をする際の準備、道具、作業手順、Tipsそして失敗などを述べます。以下はそのほとんどが失敗から学んだ教訓です。またana5さんのブログにはこうした実際の作業のコツがたくさん記載されているので(ブログなので目的の記事までページを繰る必要がありますが)ぜひ参考になさって下さい。


1.安全性の確保

硬化したエポキシに毒性はなく、環境ホルモンであるビスフェノールAが溶け出すこともないとされています(だからこそ飲料缶の内面コートにも使われているわけです)が、硬化する前のエポキシ・レジンと硬化剤およびそれらの混合物からは化学物質の蒸散が皆無ではないでしょうし、それに直接触れることは避けた方が良いと考えられます。肌にくっつくと取れないだけでなく、体がエポキシに敏感になり(sensitization)最悪の場合エポキシを嗅いだだけでアレルギー反応が起き、エポキシを使用できなくなることもあります。そこで、出来るだけエポキシに触れないよう作業にするための工夫が必要です。

健康への配慮

エポキシのようなベトベト系素材は(予期せず)垂れる、くっつく、染みる、固まる、取れないとその扱いは本当に厄介です。自分の体や着衣もできるだけ汚さずにおこうとしても絶対汚してしまいますから、あらかじめ予防措置をとっておくことが肝要かと思います。

 

  • 養生:作業箇所周りを養生する。塗装作業と同じく、容器に刷毛を浸し運んでいく間にポタリと垂れるのはエポキシも同じこと。慣れてくればあまり周囲を汚さず作業できるでしょうが、それでも養生にこしたことはありません。計量や攪拌をする作業台はエポキシが接着しない素材(ブラスチック・シート、ラップフィルム、マスカーなど)でカバーしておく。コーティングやグラッシングの際には(絶対と言って良いほど)エポキシが垂れてしまう。作業場所の木の床に垂れて硬化したら取れません。無理矢理取ろうとしたら木の方が痛みます。混合に使ったスプーンや刷毛をちょっと置いておく場所もラップなどで養生しておいた方が無難です。
     
  • 手袋:計量のためエポキシをカップに注ぐときだって、すでに容器の外側にエポキシが垂れてベタベタしていますから、薄手の作業手袋(ゴム製、極薄手のものより青色をしたニトリル手袋の方が丈夫でお薦め)は必須です。また、ベタベタした手袋で他を触ればそこが汚れてしまうので、手袋は頻繁に交換した方が良いでしょう。すでに何百という手袋を使い捨てています(なくなると焦りますから買い置き必須)。
     
  • ゴーグル:私は眼鏡を着用していますのであまり気にしたことがないのですが、もしエポキシが目に入ったら救急へ直行でしょう。塗料と違い刷毛からエポキシが飛び散ることは余りありませんが、目の周りの皮膚、眼球は一番敏感なところですからゴーグルを着用した方が良いでしょう。
     
  • 防毒マスク:蒸散が皆無とは言えないし、その臭気は嗅いで気分の良いものではありません。作業場所の換気を良くし、かつ防毒マスク(活性炭カートリッジによる吸着ができるもの)を着用した方が良いでしょう。この頃のマスクは排気弁があって呼吸にはほとんど不便を感じませんから、慣れだけの問題でしょう。防毒マスクを着用するだけでなく、私は換気扇の直ぐそばでエポキシを混合しています。
  • 防塵マスク:計量、混合、作業中には防毒マスク着用ですが、その後エポキシを研磨するときには防塵マスクの着用が必須です。非常に堅いプラスチックの微粉末を吸い込むなどと言うことは絶対避けた方がよい。写真は集塵機の入口に溜まったエポキシ研磨粉です。これが肺に入るのか!
  • 作業着:専用の作業着(長袖)を着用することをお薦めします。これまで何着のTシャツ、フリース、セーター、ズボンに(堅い)染みを付けたことか。高価なものでなくても、不織布でできた全身を覆う「つなぎ」みたいなもので充分でしょう、使い捨てもできるし。夏場は半袖・ショートパンツで作業したくなりますが、毛に付いて硬化したエポキシを剥がし取るのは痛いです。

後始末

モットーとしているのは使い捨てです。その理由は、『有機溶剤は使いたくない』からです。私はアレルギー反応を起こしやすい方ではありませんが、以前、塗装作業中にひどい頭痛に襲われたことがあるので有機溶剤の使用には神経質になっています。どうしても作業中に体の一部や着衣、道具や作業場所にエポキシが付着してしまいますが、それを有機溶剤で除去しようとはせず道具は捨てることにしています。しかしどうしても付いてしまったエポキシを除去しなければならないケースはあるわけで、そう言うときには次のことを知っておくと良いでしょう。

  • 硬化する前のエポキシを拭いても完全には拭き取れない:木部には浸透し染みが残りますし、プラスチックや金属のような平滑面でも完全に拭き取ることは出来ず、非常に薄いエポキシ膜が出来てしまいます(ので接着してしまう)。
  • 完全に硬化したエポキシはガラスと同じ:たかがプラスチックと馬鹿には出来ず、完全に硬化したエポキシは非常に大きな硬度を持っています。塗装用バットに残ったエポキシを1ヶ月後に取ろうとしたら、パリンッと割れそのエッジで指を切ったことがあります。またツララ状に尖ったエポキシが指に刺さって折れ、そいつは今でも体内です。
  • 有機溶剤を使わずにエポキシを溶かし取るのにが使えます。一番お安い「ミツカン酢」(それ以外は試していない)を容器に注ぎ、エポキシを扱きとった刷毛をその中で洗浄すると不思議と酢が白濁しエポキシが溶け出すのが分かります。白濁が少なくなるまでこれを繰り返し最後に水で洗い良く乾かしておくと刷毛の再利用が可能です。有機溶剤を使わなくても済みます。
  • エポキシを混合した容器はポリプロピレン製ならば硬化後綺麗にエポキシを剥がれますが、紙製だと使い捨てせざるを得ません。

というわけで、エポキシを除去するのは「ゲル化後硬化をはじめてから完全に硬化する前」が最適です。この時間内ならば、ベトベトと手にはくっつかず、堅いゴム状なのでキレイに剥がし取ることが可能です。製品と気温によってこの時間は変化するわけですが目安としては、6時間~24時間経過したあたりと言うところでしょうか。それ以上経過すると、相手がプラスチックであれ、接着力が強いため除去するのは難しくなり削り取るしか方法はありません。ですから使った道具の後始末は直後ではなく硬化後が適しており、長く(72時間以上)放置しておくと(プラスチックなどの接着しない素材でも)除去は難しくなります。

こうして硬化したエポキシ膜は剥がし取ることができますが、もっと薄い膜の場合は丈夫な粘着テープを張りテープにエポキシを接着させ、テープごと剥がし取るとキレイに除去できます。

手袋を着用しているため手からエポキシを除去することはあまりありませんが、そんな場合は直ぐに酢を使って紙で拭い取るか、硬化するまで放っておきゴム状になったら剥がし取ります。それまでゴミや汚れが付着して汚いですが仕方ありません。洋服に付いた場合は諦めるしかありません。すでにハサミをいくつも使用不能にしています。


2.道具と材料

接着するもの/しないもの

木、金属、コンクリートなどを強力に接着してしまうエポキシですが、接着しないものもありそれらを様々な用途(これについては後の「作業」で)に有効活用することが出来ます。

接着しない素材としては、

  • ポリエチレン
  • ポリプロピレン
  • シリコン
  • ワックスペーパー(パーチメント紙、オーブンペーパー)
  • ラップ

などがあります。正式名としては他にもあると思われますが、多くのプラスチックには接着しないと考えて良いと思われます。ただ、プラスチック製(たとえば塗料用バット)でも完全に硬化した後ではエポキシを除去するのは大変困難です。

多くのボート製作情報ではラップ(サランラップなど)が有用とされていますが、たしかに接着はしないものの余りに薄いため皺なく広げるのが難しく、エポキシの方がシワシワに硬化してしまい後の始末が悪いことがあります。もう少し厚手のものの方が使い勝手が良いように思えます。

ワックスペーパーが何を指しているかですが、両面テープの剥離紙を思い浮かべると良いかと思います。その剥離素材は多分シリコンでしょうが、あの剥離紙はエポキシ作業ではとても有効な非接着素材です。作業台の上にこれを敷き、その上で木片にエポキシ・コートを行いエポキシが垂れても、硬化すれば見事にポロポロと垂れたエポキシが取れてしまいます。部材に塗装する際にぶら下げておくとエポキシが垂れて硬化してしまうけれど、ワックスペーパーの上に置いておけば底部は真っ平らにエポキシが硬化しますから出来上がりが綺麗。ある程度厚みがあり平滑で何度でも再使用可能なので私は良くこれを使います(イヌが囓った椅子に人工皮革を貼ったとき90cm幅の両面テープを購入したので、その剥離紙を取っておきました)。

安価に入手できる素材を探せば良いのですが、お薦めは花屋さんで花を買ったときに巻いて包装してくれるあの薄いプラフィルムあるいはお菓子作りに使うオーブンペーパー(パーチメント紙)です。ただオーブンペーパーは安価とは言えないし薄手なので平らに敷いておくのが難しい(接着しにくいからテープで止めておくことも難しい)。私はコストコで仕入れた安価で幅広のパーチメント紙をよく使います。

計量と混合

エポキシはその硬化メカニズムのためレジン(樹脂)と硬化剤(結合剤と呼ぶべきか)の混合比がクリティカルです。適当に混ぜ合わせると硬化しない、最終硬度が低下するなどのトラブルが起こりえます。そこで、どのような方法で計量するかを決めておき、常にその方法で計量することを習慣にしておくことが必要と思われます。

まず1ガロン(製品によっては2kg)入りの大きな容器から直接少量を混ぜ合わせる容器(紙コップなど)に正確に注ぐのは難しいので、レジンと硬化剤を小分けにしておきます。私が使っているのは卓上ソース入れの小瓶です(100均で時々仕入れる)。面倒に感じるかも知れませんが、一回に計量するのはせいぜい120ml+60ml=180mlほどですからこれで充分です。

混合比が体積比か重量比か(海外製品には体積比、国産には重量比が多いようです)によって計量方法は異なり、重さを量るのは電子式秤があれば楽に出来ますが、体積比の場合はちょっと工夫が必要になります。例えば混合比2:1で120mlと60mlを正確に測るとします。調理用目盛り付カップ(2つ必要)で測ったとして、それを別の容器に移すのに計量カップから全量を正確に移せるか?粘度の高い液体ですからかなり側壁につくことになるでしょうし、そうなると混合比が狂うことになります。それに計量カップを毎回(有機溶剤を使用せず)キレイに拭き取るのはほとんど不可能、前回のが残っていたらまた計量に誤差が出るでしょう。

ちなみに混合比の許容誤差はThe Epoxy Bookによれば「硬化剤:プラス10%まで、レジン:プラス20%まで」とありますし、米国のあるビルダーの本(Samuel Devlin. ''Devlin's Boatbuilding: How to Build Any Boat the Stitch-and-Glue Way.''  International Marine/Ragged Mountain Press. 1995.)には「5%まで」とあります。結構アバウトでも良いのかという感じがしますが、可能な限り混合比は正確である方が良いでしょう。重量で5%というと120gなら5gですから、g単位で計測可能な秤で充分と思われます(私は0.1g単位で測れる調理用秤を使っています)。

System Three社からはボトルの口に嵌める計量用ポンプ(一回押すと定量出る)が入手できますが、そのポンプの説明書には「ほぼ一定量。正確を期すには計測が必要」とあり、また一回のポンプ量が比較的大きいため少量しか使わない場合には無駄が多いので、買ったものの使っていません。
 そこでさまざまな計量方法が考案されており、私が真似させてもらっていたのは次の写真の計量カップです(Cheap Epoxy Measuring Gauge http:www.blueheronkayaks.com/kayak/buildingInfo/measuringcup.htm)。

左のカップには窓が切り抜かれてそこに量の目安となる線が引かれています。このカップの中に同じ形のカップを入れ、そこに先ほどのソース入れからまず硬化剤を60mlの目盛り線まで入れます。次にレジンを180mlの目盛り線まで入れれば、混合比(容量比)1:2で硬化剤とレジンが計量されたことになり、そのカップ内で攪拌混合してしまいます。写真には3種の混合量の目盛りが刻まれており、実際の作業に必要な一回のエポキシは私の場合はこれで足りています。混合最小単位が60ml(20ml+40ml)ですが、これより少ないエポキシを計量するのは誤差が大きくなるでしょう。その点、重量比の場合にはこれより遙かに少ない量を計量することが可能です。いずれにせよ、自分のやり方を工夫し、いつもその方法を適用することが肝心かと思います。重量で計量することに比べると随分いい加減な方法かも知れませんが、これまで不都合が起こったことはありません。この方法では少量の混合には向いていませんので、この頃は重量比で混合することが多いです。0.1gまで計量可能なデジタル秤を使えば少量の混合も可能ですが、混合比100:43のためには電卓が欲しくなります。

次にレジンと硬化剤を混ぜ合わせるのも様々な小道具が提唱されていますし、販売もされています。曰く、

  • 専用かき混ぜ棒(木製)
  • アイスクリーム・スプーン(木製もしくはプラスチック製)
  • プラスティック・スプーン
  • 割り箸 等々

コンビニで買い物したときに付いてくるスプーンをこまめに取っておいて使ったこともありますが、スプーンは形状が丸いのでカップ側壁までエポキシをキチンとこそげ取り、混ぜ合わせるのには向いていません(たいてい先割れスプーンだし)。私が使っているのはこんなシリコン製の堅めのヘラです。

spoon.jpg

これで数分間はレジンと硬化剤をかき混ぜます。その時壁面と底を良くこそげながら、未混合のレジンと硬化剤が残らないように注意します。スプーンと言うよりヘラなので、フィラーを入れて堅くなっても混ぜられますし、エポキシをカップに残さずこそげ取ることができます。またシリコン製なので付着したエポキシを硬化後キレイに除去するのも簡単です。100均ショップのお菓子材料コーナーで見つけました。

エポキシ2液を混合するのための容器についてです。安価で大量にストックしておき使い捨てするために紙コップを使うことが多かったのですが、一つ難点があります。それは形状から混合したエポキシの表面積が小さくなり(特に夏場は)その中で発熱が進んでしまうことで、これを避けるには紙コップのように縦長の容器でなくもっと広口の容器を使うことです。この頃私が良く使っているのはこんなジップロックの保管容器です。容量は236mlしかありませんが(二回りほど大きなものもある)ポリプロピレン製なので硬化後きれいにエポキシを剥がし取ることができ、再利用可能で重宝しています。

ziplock_small.jpg

色んなプラ容器が使えますが素材や硬さによって不向きなものもありますので、一番重宝しているのは時々コンビニで買う「焼きプリン」の容器かな。なかなか丈夫で作業後たわめてやると中で硬化したエポキシがすっぽり取れます。

フィラー(シックナー)

 エポキシにフィラー(filler、粉末状添加物)を加えることで、エポキシがもともと備えている流動性や比重等を変化させることができます。ファイバーグラッシングには低粘度エポキシが求められますが、接着剤として使うときは垂れない高粘度のエポキシが必要だし、パテとして使うにはさらに粘度が高くかつ軽いエポキシが相応しい。こうした使用目的に応じた様々なエポキシ製品(接着剤やパテの名称が付けられて)が販売されていますが、標準的なエポキシにフィラーを加えることで、様々な特性(適性)をもつエポキシを作ることが可能となります。

フィラーはシックナー(thickener/増粘剤、シンナー/thinnerの逆)と呼ばれることもありますが、その機能は粘度を増すだけではないためフィラーと総称する方が適当かも知れません。木造艇製作でフィラーを使用する時にはもっぱらエポキシの粘度を高めるために使っているのでシックナーと呼ばれるのでしょうが、The Epoxy Bookによればフィラーには機能により次の4種があるそうです。

  1. 揺変性物質(thixotropic agents):これを添加すると揺変性流体となり、力が加わると流れるが、なければ簡単には流れないものになる(揺変性なんて単語初めて聞いた)。例えば船のパネルとパネルの接合部(チャイン)にヘラでエポキシを押し込み、塗り込めようと力を加えるとエポキシはその形に押し広げられるが、ヘラを離してもそのままの形を保つ(フィレッティングのことです、分かり難いけど)。例:シリカシックナー、木粉(wood flour)など
  2. 増量性物質(bulking agents):これを添加するとエポキシは軽い滑らかなパテのようになる。ただしこれは揺変性フィラーと一緒に使う方が望ましい。例:マイクロバルーン、ガラスビーズ、木粉など
  3. 繊維性物質(fibrous fillers):添加によりエポキシの引っ張り強度が増加する。例:チョップドストランドなど
  4. 着色剤(pigments):エポキシに色をつける。例:グラファイト、アルミニウムパウダーなど

フィラーを加えるとこのようにエポキシの特性が変化しますが、The Epoxy Bookによれば揺変性フィラーは求める特性に要する添加量が一番少なくて済むため、エポキシ特性の変化が最も少ないとのこと。また増量性フィラーは添加量に比例して引っ張り強度が低下するそうです。フィラーの選択には物性のみならず見た目あるいは取り扱いの容易さも関係してきます。

  • マイクロバルーン増量性フィラー。粘度を高め、垂れないパテあるいはフィレットとしてもっとも多く使用されているが、その名の通り極微少の中空の粒ですから、これを沢山混ぜた場合、硬化したエポキシはソリッドな状態ではなくまるで「エアインチョコ」みたいな状態に思えます。またフェノール樹脂から作られるため色が赤味を帯びた紫色で、木の船とマッチしません。
  • シリカシックナー:商品名アエロジル。白いフワフワの微粉末なので、均一に添加混合するのが大変です。増量剤であり強化剤ではないので、これだけでパテを作ると強度が低下しクラックが生じると商品説明にあります。
  • 木粉:文字通り木の粉(ウッド・フラワー wood flour)。増量性フィラーであると同時に揺変性フィラーでもある。(素人考えですが)木粉自体にエポキシが浸透しますから、マイクロバルーンとは異なり粘度が増加しかつ増量しながらソリッドな状態を保つように思えます。色は(もちろん)木の船にマッチしたものです。

wood_flour.jpg

というわけで、私はもっぱらフィラーは木粉のみ、より滑らかなフィレットが欲しい時だけシリカシックナーも混ぜて使っています。ただ木粉の入手は難しいかも知れません。売っているところは限られていますし、購入しようとすると(ただの木の粉にしては)結構なお値段(5L、約1000gで1,500円)。しかもエポキシと一緒でないと単品では販売してくれません。一度だけ5L購入したことがありますが、さすが商品だけあって(小麦粉のように)滑らかで細かな木粉です。米国CLCでも販売していますが約1Lで$10.99です。入手が難しいので自作なさる方もいらっしゃるようです。といってもサンディング作業で出る粉を集めていてはとても足りないので、割り箸をエンピツ削りでオガクズにし、さらにコーヒーミルで細かくして作っているそうです。木粉が足りなくて、丸ノコの切りくずを混ぜたときはフィレットがクランチー・ピーナッツバターみたいになってしまいました。今は材木店でベルトサンダーの研磨粉を大量に分けていただいたものを使っています。

一つ注意として、フィレットを作るためエポキシに木粉を混ぜる際には(切り屑のように)繊維が入ったものでは滑らかなフィレットになりません。それで構わない個所もありますが(見えないところとか)滑らかな仕上がりを求めるときには文字通り小麦粉のような木粉を使わないと、硬化したフィレット表面が凸凹になり研磨に苦労します。頂いたベルトサンダーの研磨粉には繊維が入っているため(多分小さな番手のサンドペーパーを使っているからでしょう)、集塵機で吸い、フィルターについた非常に細かな粉を集める手間をかけています。また、サンディングで出た削り粉もこまめに集め利用しています。


3.研磨

やらないで済むなら硬化したエポキシをサンディングするなんてしんどい作業はやりたくない。カヤック製作本で「製作過程の90%はサンディングである」という記述を目にした時はウンザリしました。でも、やらなきゃならないにしても、出来るだけ楽をしたいというのが本音です。

研磨道具として使っているのは、

  • 金工用ヤスリ:持ち手のついた荒目と細目
  • 紙ヤスリ:#80から#240まで
  • ランダムアクションサンダー:マジックテープで専用紙ヤスリを固定し、円運動に偏心を組み合わせたもの
  • オービタルサンダー:底面に紙ヤスリを固定し、それがブルブルと細かく円運動する
  • スクレーパー:僅かな刃(返し)をつけた金属板

エポキシ・コートやファイバーグラッシングをやってみて分かったのは、エポキシを平滑に塗布することは絶対(と言えると思う)無理だと言うことです。粘度が(塗料より)高いため、水平面に塗っても自然と平らになっていく(レベリング leveling)と言うことはないし、畝のような模様が残ったり、ファイバグラスの織目模様のままにデコボコしていたり、垂直面では硬化途中に重力で流れて固まったり、エポキシが過多だったところには垂れがあったりします。一見テカテカで平らに見えるけれど目をこらせばガッカリ。このエポキシ表面を平滑にするにはサンディング(もしくはスクレーピング)しかありません。私はこんな順序で作業を進めています。

  1. はっきり分かる出っ張り、垂れを金工ヤスリやスクレーバーで削り取る。
  2. #80を付けたランダムアクションサンダーでまず全体を荒くサンディングする。エポキシ面の凸部が削れ低い箇所が残って、途端に塗布のまずさを実感する瞬間です。surface_to_sand.jpg
    (サンドペーパーを当ててみるとこんなにデコボコの表面)
  3. 番手を上げながらファイバーグラスまで削らないよう注意しながらサンディングを進めます。
  4. 削りかすを拭うと平滑になったように見えますが、削れていない低い箇所(小さなテカったスポット、shiny spot)が残っていてガッカリします。エポキシコートを繰り返す場合はこのまま再コートしても構わないのですが、塗装下地としては不合格です。scraping.jpg
    (shiny spotをスクレーピングしているところ)
  5. シャイニースポットすべてにチョークなどで印(心理学で言うところの「弁別刺激」)をつける。ここが削り残しだよという目印で、その数には愕然としますが、つけておかないとつい見逃しが発生し後で後悔します。
  6. ファイバーグラスぎりぎりまで研磨してもおそらくまだシャイニースポットは残り、塗装でその箇所は埋まりませんので、私はサンディング・シーラーのお世話になることもあります。これは研磨性が高いためオービタルサンダーを使うか手研磨です。

とこのような工程を踏んでいますが、いくつか注意点を。

  • 電動サンダーは本来フラットな面を研磨する道具ですから船の曲面には向きませんが、できるだけ傾けず底面を密着させておかないと思わぬ削りすぎが生じます。
  • サンダーのパワーは大きいためついつい削りすぎや疵をつけてしまいますので、変速可能なものを選ぶかトライアックを利用したパワーコントローラーが必要です。
  • サンダーの研磨力を下げ、曲面にも対応できるようにサンダー底面と紙ヤスリとの間にスポンジ(10mm厚位)を挟むと、ダレてくれ曲面にも対応可能です。
  • 曲面はどうしても手研磨になります。
  • 作業中は防塵マスク着用は必須。できれば集塵機があった方が良いでしょう。

グラッシングやコーティング後の研磨の他に、造船作業ではフィレットの研磨も待っています。30mm余りの幅の完全に硬化したエポキシの厚い帯を研磨するのは、それが手の届きにくい場所だったりするとウンザリしてきます。フィレットを施工する箇所は入隅が多いわけですから、その隅にアール(R)を付けるためのフィレットは丸く研磨しなければならず、サンドペーパーを丸い筒に巻き付け手で研磨していきます。研磨の手間を少しでも軽減するため、フィレッティングの後にテープやピールプライ(エポキシを吸い取るためのナイロン布)を貼っておくのですが、完全に平滑にはなりません。ついつい「まぁ、この辺で良いか」と思ってしまうのがアマチュアの悲しさ。ともかく、Happy Sanding!