ディンギー製作記ー4(ハル内側の造作)
再度ターンオーヴァし、ハル内側のフィッティングを行う。
- 各種補強材とりつけ
- ガンネル、クウォーターニー、ブレストフック造作
- 後部デッキ張り
- マストホール
- サイドベンチ
4-01 お手本にしたいディンギー(9/5)
私はクラシックなディンギーにはほとんど乗ったことがありません、第一そんな木製ディンギーなんて日本では滅多にお目にかかれない。しかし英国滞在中の1998年のことロンドン・ボート・ショウでこんな船に出会いました。
かつて英国で木製クラシック・ディンギーを製作していたMcNulty boats(会社は2002年に清算されたと思われる)による9ftのディンギーです。そのときは「わぁ、アマゾン号みたいな船だ」とその姿に見とれていただけですが、こうして木造艇を作るようになるともっとしっかり構造や細部の造作、収め方をよく見ておけば良かったと後悔しきり、伝統的工法ではこんな風に造るのかとお手本にできたのに。でも、この船をまじかで見る機会に恵まれました。
委細は敢えて記しませんが、この9ftと少し大きな12ftのディンギーを所有していらっしゃる方が工房から車でほんの15分余りの所にいらっしゃり知己を得ました。9ftという小振りの木製ディンギー、マホガニー材(!)の銅リベット留めによるクリンカー張りです。その他の材はオークとチーク、スパーはパイン、もちろんニス塗り。20年を超える船齢のはずですが全くズレも歪みもありません。ブロック類も木製です。
中央写真はスターボード・サイドのクォーター・ニー、木目はちゃんと45度方向に走っており、分厚いガンネルにぴったり収められています。トラベラー・シートを留めている金物は多分シリコン・ブロンズ。右写真はブレストフックですが、マホガニーのキールとそれに繋がる頑強なステムが見えます。(裏側の写真もちゃんと撮ってきました)
こんな風にきちんと造作を収めたいものですが、初体験の作業ゆえ手探りの現場合わせ、はたしてこのページにはどんな言い訳と悔悟が記されることやら・・・
4-02 セイルを広げてみる(9/10)
Beach Boys乗組員シュウヤとJollyhotさん(これが二度目)に手伝って頂き、フィッティングを行うため船をターンオーヴァしました。ついでにセイルも広げてみました。セイルに乗っかっているのはJollyhotさんの愛犬リルちゃん。
4-10 マストステップ(10/2)
ターンオーヴァを手伝ってくださったJollyhotさん、かつての''470乗り''にして現在はクルーザー''Jollyhot号''のオーナースキッパーとして常にシングルハンドで海に出ていらっしゃる(いつも愛犬リルちゃんが一緒ですが)。信頼を寄せる船乗りなので艤装について相談に乗ってもらったところ、構造面で心配な箇所を指摘されました(それ以外にも艤装方法について多々教えられましたが、それはいずれ)。
懸念は、マストをマストホールとマストステップに差し込むだけでステーで支持していないことです。Laser級だってマストホールに差し込むだけですがあちらはアルミマスト、メンハリをフォアステイにしていた''ツバメ号''はマストホールの所からマストが折れちゃったしなぁ。いくら小さなセイルとは言え確かにマストホールとマストステップは強度面でちょっと心配なところがあります。建造中の船を見にいらしたカヤック製作仲間のTさんも、自分の9ftディンギーのマストステップがとれちゃったと経験談を話してくれました。そこで各種フィッティングの前に(後ではやりにくいため)まずマストステップ周りの補強をしておきます。
マストは写真のように一番前のフレームAのすぐ前に位置し、スォート(まだついていない)のマストホールを通り、マストステップに差し込まれます。わずかにレーキしたマストですので、力はマストホールを支点にして主として前方向にかかるはずです。その力を分散させるためマストステップ周りのフィレットをファイバーグラスで補強し、更にファイバーグラスを下のチャインとフレームAまで延長しました。結局、バウ内側にファイバーグラッシングをしたことになりましたが、これでマストステップがとれちゃったということは避けられるでしょう。ようやくその他の造作に入れます。
4-11 各種補強材取り付け(10/8)
いよいよ船内造作に取り掛かります。まずはスウォート下部、マストステップ、スターンデッキなどの補強材取り付けからです。
船ですから当然三次元に曲がっており直線部分はほとんどない。そこに真っすぐな角材を補強として付けるとなると、その端はこんな風に微妙なカーブにする必要があります。使ったのは米ヒバ(Yellow Ceder)、軽いけど密な水にも強い木だと思います(切ったり穴開けたりするとよく分かります)が色がちょっとね。
最初は型紙にハルのカーブを写し取りそれに合わせて材の端をバンドソーで切ったり、ディスク・サンダーで削ったりしてみましたが、コンパスで材に直接カーブを写しても精度に変わりはないみたい。その結果は・・・うーん隙間が空いてますね。でもそこはエポキシ、多少の隙間は充填可能、頼りになります。
やっかいなのはフレームとハルパネルとの接合にフィレットを多用したため、隅のフィレットが円弧を描いていることです。後先考えずにフィレッティングしたのがいけないのですが、補強材の端を円弧に沿って丸める必要がありました。スターンデッキを張るための補強には、補強材の端を斜めにカットし接合した個所もあります(自作先輩のNさん、ご覧になっていたら笑わないでくださいね)。でもノミで削った木くずがあると船大工になったような気がする。
こうしてバウのスウォートとフレーム、センターボード・ケース後ろのスウォートとフレーム、そしてスターン・デッキ下に補強材を取り付けました。バウ・スウォートのマストホールの補強、そして中央スウォート下のメインシート・ブロックを取り付けるための補強が残っています。完成したダガーボードが邪魔なのでケースに差してあります。
4-12 スウォート(10/13)
バウフレームにスウォートのための下地補強材を取り付けました。ここのスウォートにはマストホールがあり恐らく一番力のかかる所、それゆえ下地補強材(25mm x 38mm)がさらに2本付きます。フレームから均等な間隔で補強材が付くよう、板を挟み込んでいます。
一番後ろの補強材の寸法を測り間違えたようで、カットしてある部材を嵌めてみたら長さが足りない・・・''Mesure Twice and Cut Once''と言うのにね・・・補強材用部材の余りはないから仕方なく木片を端に詰めることにしました。フレーム部の補強材ではないからこれでなんとかなろう。
ここに300mm幅のスウォートを乗っけるのですが、伝統工法ならマホガニー一枚板で作るところ(スウォートは構造強度を保証する大事な部材だから)ですが、本艇では6mmマリン合板ですませます。ハルのカーブに合わせ切ったり、嵌めたり、削ったりを繰り返しなんとか合わせました(が、ピッタリとはいかない)。一度ドライフィッティングしてみて、ズレないようマリン合板から下地材に釘を打っておき接着します。真ん中に見えているのはマストホール後部とフレームの間の隙間を埋める部材。ここに65mm角のマストホールを開けますが、それは後回し。こうしてスウォート部分を作り、裏側にエポキシ防水加工を施してから後でフレームと接着します。
次は中央部フレームに乗るスウォートの取り付けです。すでにフレームには補強材を取り付けてあり、今回はその後ろ225mmの所に一番長い幅1440mm程の下地補強材を取り付けます(同じく25mm x 38mm)。設計ではセンターボックスに渡るように取り付けることになっていますが、センターボックスは撤去してしまいました。しかし、この補強材が乗る長さだけは残してありここで補強材を受けます。
すでに4本目となる補強材取り付け、そしてその上にマリン合板のスウォートを載せる作業、徐々に上手になってきて写真のような出来栄え。上から合板を落としてやるとパンッと良い音がしてぴったり嵌り、どこを押してもグラつきは無し。こういう作業が決まると嬉しいけれど、もうこれが最後二度とやることはないですね。別の場所に保管してあったマリン合板がやけに薄い色に写っています。
さてこれで二つのスウォートが取り付けられましたが、まだ本接着はしていません。付けてしまうとその下の造作に不便なため、まずそうした個所を仕上げてから取り付けます。その一つが写真に写っているメインシート・ブロックを取り付ける台座です。何しろ合板で出来ている船なので艤装品を取り付けるためビスを打とうにも強度のある場所がどこにもない。マストホールを含め何か所かに補強下地材を取り付けておきます。
スウォートが付くと途端に船らしく見えてきますね。
4-13 マストホール(10/20)
出来上がった前部スウォートにマストホール(実際には四角ですが)を開けます。型紙を作り所定の位置に置いてみました。ジグソーでラフにカットしてから四角に成型しますが、マストは少しだけレーキ(後傾)しているのでスウォート下部の補強材も含め斜め傾斜を付ける必要があります。設計図から原寸図をおこし、開けた穴の端から何ミリ前方(後方)にズレた所まで削るという方法をとりました。
左写真にはスウォート下部に付けた補強材が見えています。この補強材直後にフレーム(とその補強材)がきて、合計三本の補強材でマストホールが付く前部スウォートの強度を出しています。
マストホールから船底のマストステップを覗いたところ。マストがぴったり嵌ると良いですねぇ。最後にスウォートの上にマリン合板の補強材を取り付けて終了、マストホールの厚みは合計で43mmになりました。この補強材は設計図より若干左右に大きくしました・・・ここにビレーピンを差す穴を開けてやろうという魂胆です。(後で考えたらハリヤードがマストの前にきちゃう。ビレーピン用の穴はスウォート後部に変更しました。)
4-20 ガンネル材作成(10/20、10/23追記)
ガンネルに使う材にはちょっと悩みました。自作先輩のNさんからのアドバイスも参考にさせていただき、結局木目の細かな米松材(ピーラー)を使うことにしましたが、15x3600x36というサイズの材をどこで見つけたら良いものやら。仕方なく手に入るサイズのピーラー材をリッピングし、所定の材を作ることにしましたが、もちろん3600mmなんて長さは入手できなかったので三本スカーフします。
まずは1300長36厚の材をバンドソーで16mm幅にリッピング。ラフカットされた材をルーターに通し厚みを揃え、出来上がったのが12本の角材。これらをスカーフジョイントするため厚みの8倍の長さで端を斜めにカットします。36mm厚の材をリッピングするのに私のバンドソーはいささか非力、ゆっくり材を送らないと木目に負けて時々モーターが止まってしまうことがありました。
これらを作業台の上で接着し3700長の角材を4本作りました。自作先輩のNさんからこんなアドバイスを頂きていました。曰く、『無垢材は切断すると予期せぬ方向に捻れてしまうことが有ります、小さくて正方形に近い程修正が困難になりますので御用心下さい』 なるほどなぁ、スカーフした角材が捻じれないようエポキシが硬化するまで当て木をクランプしておきました。
接着が完了した3700mmのガンネル材です。試しに舷側に沿わせてみたら、うーん容易には曲がってくれない・・・建造指示書には150mm間隔でビス留めしろとあるのですが、(クランプしつつ)端からそうして留めていけば曲がってくれるものでしょうか?予めスチームで曲げ加工しておくべきでしょうか?折れちゃったら元も子もないしなぁ・・・
4-14 トランサム補強(10/23)
トランサム上部に補強材を取り付けます。15mm厚と指示がありますが、船外機を取り付けるなら25mmとのこと、その予定はないのでガンネルと同じピーラーで補強します。ここにガジョンの一方がボルト留めされます。
4-15 スターンデッキ(10/30、11/26追記)
ガジョンを取り付けたので後部デッキの造作、補強材取り付けとデッキ張りに入ります。マリン合板が残り少なくなり後部デッキを一枚で張るための材料が残っていません。デッキを三分割して張ることにしましたが、真ん中にインスペクション・ハッチを取り付ける予定です。後部フレームに付けるのが順当でしょうし横向き用のハッチなのですが、フレーム中央に穴を開けたくなかったので仕方なくデッキ上部にハッチを付けることにしました(ここに白いプラ製ハッチがくるのはどうもと思えたので、あとで変更)。デッキ張りのための補強材を更に6本追加します。
海外のボートビルダーがInstagramにポストする写真を見ていると、こういうところの組手にもちゃんと「ダブテイル」を使っている。そういう技量が羨ましい・・・
(11/24追記)
ちょっと間が空いてしまいましたが、ちょこちょこ作業は進めていました。前回の続きは後部デッキ補強材の取り付け、これでデッキを張ることができます。三分割したためそれぞれのパネルがピッタリ収まることはなかろう。そこで意匠的に隙間を開けそこは濃い色のエポキシで埋めることにしました。
三分割した後部デッキの両端に裏表ともエポキシ防水加工を施し、仮釘で留めていきます。仮釘のクギってなんであんなに細くてヤワなんだろう、ステンの細釘に替えてたっぷりのエポキシで留めました。デッキ中央部に見えている緑色の仮釘は位置決めに打ったクギ。
デッキ中央部にハッチも付けたのでそれを接着し、これで後部デッキ完成です。後でハルパネルとデッキの間はフィレットで補強します。
4-16 スターンハッチの製作(11/24)
唯一のデッキにして浮力体となるスターンデッキですが、ここにインスペクションハッチを付けておきたいと思い、プラスティックの丸ハッチを購入したのですが、置いてみるとここだけ白いプラ蓋が付くのはなんだかなぁ・・・思い出したのがカヤック製作時に作ったハッチです。デッキ部分をくり抜きそれをハッチの蓋にしてやろう、という訳で自作ハッチの製作です。
フレームに穴を開けたくはないので取り付けるのはスターンデッキの真ん中、ガジョン取り付け部からの水漏れがあるかもしれないし、ナットが緩むかもしれない。補強材を避け、デッキ中央部にハッチ穴を切り抜きます。
写真開口部の右がフタになる切り抜いた板(これを無くさないようにとカヤック製作マニュアルに書いてあって笑った)、左がデッキ下に接着する補強材とフタ受部で外周にはガスケットを嵌め込む溝を切ります。右の板はフタに接着し開口部にぴったり嵌るようにします。
フタ受をデッキ下に接着し、部品をすべてしっかりエポキシ防水加工し、フタを取り付けてみてスムースに取り外しできることを確認。防水のためには既製品にようなネジ込み式が優れているのは確かなのですが自作だからそうもいかず、フタを上から押さえることにします(ターンドッグ、turn dogと呼ぶようですがなぜにドッグ?)。(このターンドッグは後で作り替えました。またこの時点ではハッチ蓋が前後逆になってることに気づかず、なんとなく木目があってるように思えたんですね。)
4-17 スウォート接着(12/6)
組みあがったスウォートを取り付けるのですが、その前にハル内側を塗装しておかないと後では手が届かない恐れあり。以前にハル内側は防水と塗装下地として薄いエポキシを施工してありますので、再度軽く研磨しウレタン(クリア)を4回塗り重ねました。残念なことに夏の高湿度でパネルに染みができた箇所があります。研磨してもこの染みは取れず、塗装によりカバーできるかと期待しました無理でした。
S&G工法ではスウォートは構造的に二次的な機能しかないと設計者の本に書いてあり、実際取り付けは伝統的工法での受け材(カーリンと言いましたっけ?)は必要とせずフレーム補強材に接着するのみです。しかしハル・パネルとは接着する必要がありますから、隙間を埋める目的もあり裏側からフィレットを持ってやることにします。
塗装と下のエポキシ層を研磨しフィレットの食いつきを良くします。ハルとの隙間は下に施工したフィレットが硬化した後に上から粘度の低いエポキシ・フィレットを流して埋めることにしました。
スウォートが付くと船らしく見えてきますね。
4-18 トランサム補強のやり直し(12/6、12/7追記)
先に設計図通りにトランサムに補強材を取り付けたのですが、その出来には不満足。というのもトランサムは6mmマリン合板を二枚積層と指示されていますが、強度的に不安だったので内側にバーチ合板を使いました。このバーチ合板の色味が他の部分と合わず、軽量化のためにくりぬいた箇所がやけに目立つことになりました。そこでトランサム補強材に使ったピーラー(米松)をトランサム内側全面に張ってやることにしました。すでに120mm幅の補強材を張ってあるため、その下に複数枚ピーラー材を張ります。
合計4枚のピーラーを張りましたが、下に行くほど幅を狭くして見かけを重視しました。というのは嘘で、3枚で張る予定が工作を間違え幅広の板が足りなくなってしまったのでした。板同士がぴったり合うはずもなくどうしても隙間が出来てしまうので、そこは意図としてわざと隙間を開けそれを色の濃いエポキシ・フィレットで埋めようという魂胆です(ウソウソ、苦肉の策です)。ピーラー材のピンク色が塗装で濃くなり、マリン合板とマッチすることを期待しています。
(12/7追記)
ピーラー材を張りつけたトランサム内側、周囲を小さな径のフィレットで防水します。本当に細かい木粉(wood flour)を添加しないと滑らかなフィレットが作れませんが、生憎そうした木粉が切れかけています。ベルトサンダーの削り粉を大量に分けてもらってあるのですが、繊維が混じっているため滑らかなフィレットが作れず、仕方なく細かな粉だけより分けることにしました。といってもそんな目の細かなフルイはないので、集塵機に吸わせフィルターに付いたものをかき集めました。まずはマスキング、シリンジでフィレットを絞り出し、小さな径のヘラで扱いてやります。
さてこれがお化粧の済んだトランサム、まだ防水エポキシを施工しただけですが、これと同じピーラーでガンネルを作りつけ、そしてそれより濃い色のマホガニーでクォーターニーとブレストフックを作ります。果たして趣味は良いかな?行き当たりばったりなんですけどね。
4-161 スターンハッチ失敗の巻(12/8)
以前造ったスターンハッチ、写真を見て「おや、変だな」と思った方もいらっしゃるかもしれない。はい、間違えてました、前後逆に付けちゃいました。いつどこで間違えちゃったんだろう?せっかくデッキを切り抜いてそれをハッチ蓋にしたのになぁ。
というわけで前後逆に付け直しです。ガスケットを受ける部分が前後で若干寸法が違っていたのでその修正に手間取りましたが、まぁなんとか納まりました。こういう失敗をよくやるんです、私。
4-21 ガンネル材蒸し曲げ(12/12)
ガンネル材を試しに最長ビームのスウォート付近から後部に向かいクランプで固定してみるとこんな具合。バウに向かってこれだけ曲げねばなりません。
曲げは一方向ではなく、そこに捻じれも加わりますからやっぱり予め曲げておいた方が無難そうです。というわけであっさり方針転換。中央スウォート付近にガンネル材を固定し、真っすぐな材の蒸し曲げに挑戦です。 と言っても本式に蒸気発生器と蒸し器を用意してというわけにもいかず、なにせ3700mmの長さがありますから。そこで試みたのは「アイロン」です。
曲げようとする部分に濡らしたタオルを巻き、蒸気が逃げないようアルミホイルで包み、外からアイロンで熱してやります(ネットで見つけた方法ですがソースを失念しました)。あんまり熱くするとスカーフした部分のエポキシが柔らかくなってくる恐れあり、そこで温度はスチームになる直前(絹用)にしました。情報によれば曲げようとする材厚さ1cm当たり10分アイロンを当てろとのこと、でも90度も曲げるわけじゃなし一回に60cmほどの長さに5分間アイロンを当ててみました。それでもタオルから蒸気が出て木材も触れないほど熱くなり、ホイルの隙間からは蒸気が昇ってきます。こうして60cm蒸してはクランプで固定、ポートとスターボード交互に進めていきました。
後部は曲がりがそれほど大きくないのでまったく問題なく材は曲がり、シアーラインにガンネル材を固定することが出来ました。次は曲がりの大きな前部に取り掛かります(作業中に写真は無し)。こちらの方は4回(両サイドで8回)に分け少しずつ蒸らしては曲げを繰り返していきました。
バウまで問題なくガンネル材を曲げることができ、全部で44個のクランプで留めました。参考にした情報ほど蒸し時間が長くないため、材はそれほど柔らかくはなっていないでしょうし蒸気も含んでいないでしょうから、乾燥後クランプを外したら元へ戻っちゃうかもしれませんが、それでも少しはクセがついてくれるでしょうからビス留め+接着は容易になると期待しています。
4-221 ガンネル取り付け開始(12/15)
蒸し曲げしておいたガンネル材の取り付けにかかります。果たして材は曲がってくれたか?
クランプを外し船の上に乗せてみると、このようにバウに向かって曲がりのキツイ部分がちゃんと曲がってくれています。シアーライン通りという訳にはいきませんが、両端と真ん中にクランプするだけでちゃんとハルに沿いピッタリ曲がっています。蒸し時間(アイロン当てた時間ですが)はもう少し長い方が良かったでしょうが、なにせ初めてやってみたので(もう二度とやりませんが)。
さてこれでガンネル材を取り付けられそう、まずはスターン補強材にガンネルの先端をはめ込むためにフィレットを削ります。完全に硬化したエポキシ・フィレット、ノミでも容易に削ることはできず使ったのはマルチマスターという振動ツールで、先端に付けた刃物が7度の角度で細かく振動します。こういう場所に使うのは初めてでしたが摩擦熱でフィレットが柔らかくなり、その付近ならばノミでサクサク削ることができました。こうしてガンネル材を嵌めてみると・・・私にはこれが限界(Nさん、笑わないでくださいね)。
なんとかトランサムとハルの間にガンネルを嵌め込み、バウまでハル内側に沿わせてみましたが、多少力を掛ければシアーライン通りに密着してくれ、大きく浮いている箇所はありません。15cm間隔でビス留めしろと指示されていますが、もっと間隔をとっても大丈夫そうです。このビスはoutwaleで隠れてしまいますから、「曲がりのキモとなる部分」だけビス留めしてやればすみそうです。
それより途方に暮れるのはバウ、いったい左右二本のガンネルをどうやって密着させてたら良いのやら・・・
4-222 ガンネル-inwale接着(12/19)
ガンネル(inwale)をビス留め+接着します。蒸し曲げ後すぐに接着しなかったのはいまだにその納め方を迷っていたからです。ガンネルの造作はブレストフックとの納まりに関わりますので簡単には決められませんでした。どう納めるのが理想かと言えば、もちろんこれです。
恐らくステムにはめ込んでいるのだろうと思いますが、見事な出来ですよね。果たしてこれが自分にできるか?無理ですね....そもそもこの船にはステムがないし....ここの造作については木造艇自作先輩のNさんから(絵まで描いていただいて)いくつかプランを示唆されていました。成る程と思わせるアイディアだったのですが、自分にそれが可能かどうかはまた別問題。設計指示書のプランは「ガンネル(inwale)の端の始末は気にするな、上から6mm合板のブレストフックを乗せて隠しちゃうから」というものでした。うーむ、そういう逃げが必要ですよね。
ガンネル接着直前まで色々方法を考えて決めたのはこれです。マクナリティ・ボートのクリンカー張りディンギー、以前お手本にしようと見学に行き沢山写真を撮ってきたその一枚に改めて目をやれば、おぉこれなら出来そう。inwaleをバウ先端でピッタリ合わせないで済みます、ブレストフックをピッタリ納めるのは大変でしょうがこれならやれそうです。バウ先端までinwaleを伸ばさずフィレット部を意匠的に見せてしまうというのはNさんからも示唆されていた方法なのですが、そこをもうひとひねりして写真のようにバウ先端の隙間をエポキシ・フィレットで埋めてしまうことにしました。「エポキシ・ステム」という訳です。
そうと決めたらあっさりガンネルを切断。
所々キモになる箇所をビス留めしながらガンネルを接着していきます(さすがに作業中の写真は無しです、手がエポキシでベタベタ)。両サイドで33本(奇数?)のタッピングさらにクランプで隙間も浮もなく留めることが出来ました。どうしてもハル・パネルと段差が生じてしまう個所がありましたが、ガンネル材の曲りなりの方がスムースなカーブかもしれません。
なぜかポートサイドの方が出来がよろしくない。多分こちらの材を最初に蒸し曲げしたのですが、初体験ゆえ十分に曲げていなかったからだと思われます。それはバウ先端の仕上がりを見るとよく分かります。
スターンから接着していったのでさすがにバウに近くなるにつれ、その縦方向(Z軸)の曲がりがきつくなりどうしてもバウ先端をハル・パネルに合わせて曲げることは叶いませんでした。その段差を見るとポートサイドの方がスターボードサイドよりも大きく、これは削るしかありません。
という訳で完璧な出来ではないけれど、大きな作業がまた一つ完了。10時に初めて14時までかかりましたが、最後の30分ははみ出たエポキシを綺麗にこそげ取るのに費やしました。slow硬化剤を使いましたので明朝クランプを外すのは止めた方が良さそうです、明日はoutwaleの蒸し曲げです。
4-223 ガンネルーoutwale接着(12/21、12/26追記)
outwaleを取り付けますがやっぱり予め曲げておいた方が無難そう、inwaleの半分の材なのですが細い分曲がりやすいものの簡単に折れそうです。
その前にinwaleをじっくり眺め、手で触り、鉋で整形してシアーラインを整えておきます。
前回と同様ガンネル材にアイロンをかけ柔らかく曲がりやすくしておき、整形したinwaleピッタリにクランプで仮留め。
(12/23追記)
蒸し曲げしたoutwale材、素直に曲がっています。シアーラインにぴったり沿わせてから長さを調整し、両端を滑らかなカーブに成形します。
outwaleをどのように納めるか、特に船首でどう左右を合わせるかですが設計図では船首手前でカットすることになっています。確かにステムはないし、左右を合わせると言ってもバウ先端はRを付けてありますからそう易々とはガンネルを合わせることもできない。inwaleをバウ先端でカットすることにしましたから、それにoutwaleも合わせてやるのが自然でしょう。
午前中いっぱいかかってoutwaleを整形し、午後からビス留め+接着にかかります。まずは絶対に垂らしてしまうエポキシ接着剤のための養生。
予め材を曲げてあるため比較的広い間隔でビス留めしてやれば隙間なく納まりそうですが、指示書には15cm間隔でビスを打てとありました。僅かに浮いてしまう個所はクランプで押さえるのですが、ここでスカーフ部の曲がりが足りず少し浮くことに気づきました。スカーフジョイントでもやっぱりハードスポットが出来るのですね。inwaleの時と同様ポートサイドの方が密着度が低いのは、ハルパネルの整形が十分でなかったからのようです。二日間クランプしたままエポキシ硬化を待ちます。
(12/26追記)
工房の気温が下がっておりエポキシが硬化するまで時間がかかるようになりました。クランプを外した姿はこの通りで、内外のガンネルが付くと船の姿が締まりますね。
さてここからまた整形が必要、僅かな段差が出来ている箇所もありますし、エポキシがはみ出た所もあります。シアーラインに目を近づけスムースなカーブを心がけ鉋で整形し、最後は紙やすり。
ハルパネルの形状が波打っていたためでしょうがどうしてもinwaleやoutwaleとパネルとに段差が出来てしまい、これを合わせて削るとシアーラインが滑らかでなくなりそうな部分があります。仕方ないのでエポキシを盛り段差を隠してやりました。outwale取り付けビス穴もエポキシ・フィレットで埋めておきます。防水のためエポキシを塗布したらこの工程も終了です。
ベンチと同じピーラーなのですがエポキシを塗布してもそれほど濃い色にはなりませんでした。木それぞれの色ですからね。
4-231 クウォーター・ニー(01/04、01/06追記)
建造指示書によればクウォーター・ニーは6mm合板、150mmの三角形をガンネルの上から張りつけるだけ。S&G工法ではこうした部分は構造的に二次的な役割しかないのでこれで充分だそうです。でもね三隅の造作は目立つ部分だからちょっとはお化粧しないとね。
まずどのくらいの大きさ、デザインにするかを考える。クラシックな船ではないからあんまり装飾的なのも合わないだろう、かといって三角形じゃ味気ない。型紙を二種類つくり隅に置いてみてどちらにしようかちょっと悩む。ここにトラベラー・シートを通すのであまり幅が狭いのは不都合。でも(なんと形容したら良いのでしょうか)大きな円弧が連続してるのも不似合い。最初はデバイダーとコンパスで幾何学的に描いたのですが、結局フリーハンドでちょっと装飾的なものにしました。
紙から合板にデザインを写し取り、左右の誤差(あるんです)を型紙から移し、いよいよマホガニーに転記。未製作のブレストフックを取れる余地を残し取りうる最大の大きさで木取りをしました。5mmほど大きめにバンドソーで一気にカット。32mm厚のマホガニー部材を隅に当ててみる。果たしてこれをピッタリ納められるか?
(01/06追記)
トランサムとガンネル両方向に微妙なべベルを取る必要があります。ニーの下部をカンナとスポークシェイブ(こちらの方が両手でゆっくり作業ができるので適していました)で慎重に削っていきます。少し削っては船に当ててみてあと何回と回数を数えながら削っていきました。ついついサンドペーパー掛けたくなってしまうのですが、たとえ台木を当てていてもサンドペーパーでは面がだれてしまうことがあるので、最後はスクレーパーで仕上げました。
まぁまぁの仕上がり。1mmほどトランサムとガンネルから高い部分がはみ出ていますが、これはそちらが曲がっているから後で削るしかありません。
4-24 ブレストフック(01/06、01/13追記)
まずはブレストフックのデザインから。材に制限があるため取りうる最大の横幅で設計、最初は型紙をあてデザインを決めます。
後端の円弧はクウォーター・ニーと同じ形状にしてみました。この型紙に合わせて合板から大きめのテンプレートを切り出し、カンナで少しづつガンネルのカーブに合わせていきます。ピッタリ納まったらマホガニー材をテンプレートに沿って切り出します。
(01/12追記)
テンプレートをマホガニーに写し思い切って(何しろ材の余裕はないので)カット。それからはスポークシェイブとスクレーパーで根気よくシアーラインのカーブにフィットするように削っていきます。
写真はまだ完成途中、もっとピッタリの仕上がりを望むのですがはたして・・・
(01/13追記)
inwaleにピッタリ合うようブレストフックの側面を整形。スポークシェイブやら金工ヤスリやらでエッジがダレないように気を付けつつ、削っては当ててみて、じっくり眺めまた削りを繰り返していきました。さぁこれで良いかなと思いつつ眺めていて気付くーポート側の後端カーブがスターボード側より丸みが強い・・・そうでしたバンドソーでカットした時ポート側が少しだけ膨らんで切れちゃったのでした。ほんの2mmに満たない膨らみなのですがこういうのって目で見てすぐに「変!」って分かるんですね。
これで三隅の化粧材が出来上がり、後はビス留めとエポキシによる接着を残すのみです。あぁ、エッジを欠いたり、ルーターで面取る時に欠いたりしなくて良かったぁ。その前に裏側だけでもエポキシ防水処理をしておきましょう。
4-25 ブレストフックとクウォーター・ニー取り付け(01/19)
マホガニーで作ったクウォーター・ニーとブレストフック、いよいよ取り付けです。もう材はないしここでミスったら取り返しがつかないから神経使います。
まず動かないようにクランプで所定位置に頑丈に固定。outwaleの外側からガンネルに垂直に(ビスを絞めたとき前後に動くことのないよう)60mm余りの下穴を開けます。エポキシで接着しますからビス穴はむしろ緩めに開けて、締め付けた際にズレることのないように注意します。
たっぷりのエポキシを両面に塗布し、ビス穴にステン・タッピングをねじ込み開けた下穴に合わせてやります。
細心の注意を払って下穴を開けたお陰で所定位置からズレることなくクウォーター・ニーとブレストフックを取り付けることが出来ました。ビスをギリギリまで締め込み、はみ出たエポキシを綺麗に拭って作業終了。私基準ではまぁまぁの出来、神経張りつめていたのであぁ疲れた。
4-31 サイドベンチの製作(12/8、1/18追記)
サイドベンチはピーラー材、そのラフカットをしておきます。設計寸法より幅広の材を入手したのでハルのカーブに沿いカットすることにしました。
(12/13追記)
設計図ではサイドベンチは上の写真のようにスウォート補強材の上にビス留めすることになっていますが、材を置いてみてはたと気づく「お尻が痛そう・・・」。そこでスウォートやスターンデッキと面一に付けることにし、そのための受け材を作ります。ベンチ材には小さな丸面を取り、ハル側で16mm、材と材との間は18mmの隙間をとりました。右の写真に丸い金物が見えていますね。
これです。真鍮製ドレイン・プラグというか船体を洗った後の水抜き穴です。いずれ躊躇せず船底に穴を開けます。
(12/14追記)
サイドベンチ材とその受け材にエポキシ防水加工を施しました。米松材が濃い色になって綺麗。一度研磨しもう一度エポキシを塗布します。
(1/17追記)
サイドベンチを取り付けるための準備作業を進めています。ベンチはスターン・デッキと中央スオートの間に設置されますが、その中間にベンチ・ニーでも支持されます。ニーを現場合わせで作ったり、あちこちのビス穴をエポキシでふさいだり、細かな作業を続けています。
それに加えて今日はクウォーター・ニーとブレストフックにエポキシによる防水加工を施しました。マホガニーが濡れると果たしてどんな色になるか興味津々。
写真では色味が良く伝わらないかもしれませんが、良い色ですね。またつんだ木目、沢山の導管が独特の模様を見せています(赤ラワンと同じじゃないという意見もあるかも)。表面の質感がいかにも木材で、ニスでこれをつぶしてしまうのがちょっともったいない気もします。
(1/18追記)
ベンチ・ニーはマリン合板一枚、ちょっとチャチだけどS&Gだし、それにもう大きな材がありません。現場合わせで作ったニーですが、ベンチを固定してからだとその下に潜り込んでフィレッティングするのは困難そう、なのでまずニーの受けをベンチに取り付けておき、ニーをフィレットで固定し、最後にベンチを固定することにします。位置合わせのために受け材を仮釘で固定し、エポキシで接着します。
受け材に合わせて位置決めしたニーを速硬性エポキシでチョン付けし、フィレットで固定。ナイロンをフィレットの上に乗せておき、翌日まで硬化を待ち接着します。
4-4 フィッティング終了後の姿(1/28)
一応フィッティング作業は終わり、取り付ける部品はすべて取り付けたもののまだ細かな部品の研磨やら塗装やらが残っています。気温が低いためエポキシは一晩おいただけでは硬化せず、スクレーパーで研磨可能になるのに3日掛かったりするので、エポキシ塗布した部品を母屋に持ち込みそこで硬化を促進させたりしています。
さて、ハル内部のフィッティングが終了した姿(塗装前)をご覧ください。
センターボックス(ダガーボードケース周り)には蓋をし、スターン・デッキの蓋押さえをマホガニーで作り直し、センター・フレームの出っ張った部分をマホガニーで補強し、そしてクウォーター・ニーとブレストフックもきちんと収めました。しかし、目の肥えたNさんならピッタリ収まってないよと仰ることでしょう。はいその通り、隙間はエポキシでごまかしてますが、これはどうしようもなかったのですね、inwale付けた時に端から端まで細面を取ってしまったもので。馬鹿ですね⇒自分。
番外 搬出への準備(01/16)
この工房でディンギーを作ったらドアから出せないというのは覚悟のうえで製作を始めました。家の地下室で潜水艦作っていたというクラーク、A.C.の例もあることだし、壁を壊せばなんとかなると思っていました。
しかし、いざ壁を壊しもう一度壁を作ることを考えると、自分ではいったいどれくらい日数がかかることやら。さらに壊した壁材の始末や重労働を考えると、歳のせいでとみに一日に可能な作業量が落ちている今日この頃、どうしたものかと思案していたら二軒先に若い職人さんがいるのに気づく。ちょっと見に来てもらったら半端仕事にもかかわらず受けてくださるとの嬉しいお言葉。
というわけでこの冬一番の冷え込みの15日、搬出に向けて壁を壊し、取り外し可能な柱と壁を作ることになりました(やるのは若いHandyman、私は壁材を運んで薪にするため積んだだけ)。
ドア枠を外し、柱を外せば2m以上の間口となり、悠々船を出すことができます。耐水合板で張ってもらった壁のお陰で隙間風ともおさらば。これがたった一日でできちゃった。あぁ良かった。あとは地上までどうやって船を引っ張り上げるかを考えるだけ!?