ディンギー製作記-6(艤装品取り付けと進水まで)
6-0 艤装品取り付け
船の細々した艤装品の取り付けとシートの引き回しなど
6-1 船に穴を開ける(3/28)
船を見に来たJollyhotさんに指摘されました、セルフベイラーは付けないんですかと。おっしゃる通りこのままだとチンした時の再帆走は困難。しかし、チンはしない、そもそもセルフベイラーから排水するほどスピードはでないと反論し、でも船を水洗いした後の排水にも不便なので水抜き穴(ドレインプラグ)だけは付けることにしました。(今は当然のようにつけるセルフベイラー、神様P. エルヴストロームの考案だそうですね。オリンピック連続最多金メダルの記録を持つ彼も昨年12月に亡くなりました。ご冥福をお祈りします)
プラスチック製のはあちこちで売ってるけどちょっとチャチ。たまたま真鍮製のプラグを見つけそれを付けることにしました。当然ボトムに穴を開けねばならず、思い切って30mm径の穴を開けました。エポキシで接着するだけでなく、ボトム側にはビス受けに丸い合板をかましてあります。
さらに、中央フレーム下部にはダガーボード周りに溜まった水が後部に流れるよう、小さな穴を開けました。
6-2 ビレーピン(3/28)
ハリヤードやコントロール・シートをどのタイプのクリートで留めるか、その決まりはないけれど使い勝手の良し悪しはあるわけだから、とんでもないクリートを変なところに付けるわけにもいかない。でも、木造艇を作ったらビレーピンを付けたいなぁと考えていました。海賊が乗りこんできたら、船べりにかけた指をこれで叩き潰してやる!
しかしビレーピンをどこに挿すか改めて船を眺めてみても場所がない。せっかくビレーピン作りにもってこいのマホガニー角材を貰ってあるからぜひとも作って、飾りでも良いからどこかに挿しておきたい。というわけで、角材を丸棒にしビレーピン作りに取り掛かりました。
30mmの角材をまず丸くする。大きなボーズ面ビットがあれば四面削れば作業が速いけれど手持ちがないから、少し大きめの穴を開けた材に無理やり角材を差し込み、その際をバンドソーでカットしながら、材を穴に通し送ってやりました。ラフカットされた丸棒のセンターにネジを差し込んでドリルで咥え、簡易木工旋盤モドキで丸くしてやろうとしましたが、なにぶんセンターが微妙にずれてるから怖くて刃物は当てられない。仕方なくサンドペーパーを当てて削っていきましたが、写真の通りすごい削り粉。でも削れていくとセンターが出て結構気楽に整形することが出来ました。マホガニーの木粉が出来たと思えば、それも嬉しい。
出来上がったのがこのビレーピン。ビレーピンなんて実際には見たことがないから、いろんな写真を参考にし適当に整形。さぁできたと喜んでもこれをどこに挿す?
せっかく作ったんだから(手段は目的を選ばず、です)ハリヤードをここに留めよう。ついてはハリヤードをここまでフェアリードで引っ張ってきて、前スウォート後端に穴を開けてそこに挿そう、というわけでスウォートに穴あけです。スウォート裏の補強材幅が狭いため、あらたにこれ用の補強材を取り付け(馬鹿ですね→自分)綺麗な32mm径の穴を開けエポキシで防水加工。
ビレーピンを挿してみたら、おぉ結構決まってるじゃありませんか。コントロール・シートをこれに留めようとは思いませんが、まぁハリヤードならこれでいいんじゃない?
6-3 コンティニュアス・ループ(3/28)
ブームにメンシート用ブロックを取り付ける必要がありますが、ステンレス金具をビス留めするのが躊躇われた。45mm角のブーム、素材は軟なスプルース。そこで自作したクリップを通してブームに回す輪っか(contiuous loop)をダイニーマで作ることにしました。クルーザーでこの手のループをいくつか使っているので簡単に作れるのは分かっていました。
写真左はブーム後端のメンシートを通すブロックで、この下にトラベラーに通したもう一つのブロックがきます。右はブーム前端のタックシートを固定するためのループです。
番外:船を地上へ上げる(4/2)
地下工房で製作を始めたディンギー、ドアから出ないことは覚悟の上。「船を出すときは壁を壊す」のは既定方針でした。でも工房から出せても狭い階段を地上まで上げることができるのか?
既存の壁は撤去し、取り外し可能な壁を作っておいたので、その壁とさらにドアも撤去してみると・・・我がディンギーが工房に鎮座しているのが良く見えます。
さて、4月2日、前々からお願いしていた「Jollyhotさん」「その後輩パフ掛け遠藤さん」「葉山生まれ葉山育ちの角田さん」「一か月前までお隣さんだった廣瀬さん」に集合してもらい、いよいよ船を工房から出して地上へ搬出です。5人がかりとはいえ、狭い工房の中で船をターンオーヴァし、外へ出し、さらにお隣の駐車場へ上げねばなりません。
果たしてうまく行くのかちょっと不安でしたが、30分余りで船は駐車スペースに鎮座しました。マストも立ててみました。お世話になった4名の友人には心から感謝です。皆さんの助力がなければ、この船は海に浮かぶどころか地上に出て日の目をみることもなかったでしょう。まだまだ艤装作業が必要だし、未だ船置き場も決まっていないのですが、駐車場に鎮座する船を見て、大いに満足感にひたっている製作者なのです。
6-4 セイルを揚げてみる(04/04)
メイン・シート用ブロックの取り付け位置とか、セイルを揚げてみないと決められない箇所がいくつか。そこで風の弱い日を選びセイルを揚げてみました。この船のリグはバランスト(スタンディング)・ラグ・リグ、ヤードで帆を縦に揚げますが、ブームとヤードがマストより前に出ているタイプです。
マストにヤード、ブームを引っ付けておくパレル・ライン、ヤードのそこにハリヤードを結び、ヤードごと上に引き上げます。結構高いセールに見えますが、地上で見上げているからかも知れません。ブームが高い位置にあって有難い、ブームパンチ食らうことはなかろう。直射光のもとで撮ったのでセイルが結構赤く見えますが、実際はもう少し深い色です、そうでないとミラー・レッドになっちゃう。
セイルをセットしてみたら、パレル・ラインの取り付け方とか色々工夫が必要に感じられました。このところずっと雨模様なので外での作業が滞っていますが、明日からまた艤装作業を再開したいと考えています。
6-5 艤装に悩む
悩みその1:メインシートの引き方
メインシートはスターン(左右のクウォーター・ニーに渡した)のトラベラーから直に、つまり後ろから引くことになっています。うん?メンシートが後ろから?ポートで走ってるとしたら、馬手にはティラー、弓手にはメンシートでしょ?メンシートが後ろからくるというのは、Jollyhotさんによれば「太陽の季節」ではそうだったそうですが、慣れの問題とはいえちょっとね。
そこでトラベラーからマストに沿って前へ、最終のフロアにつけたブロックの真上にもう一つブロックをぶるさげようと思っていました。ところが、セイルをセットしてみるとブームがトランサムまでの長さがない(新しめの設計ですから後ろに長いセイルではないのですね)。となるとトラベラーとブームを結ぶラインが垂直にならず、斜めになってしまう。垂直にするにはトランサムから前へ30cmあまりトラベラーの位置をずらさねばなりませんが、そうするとそこから後がデッドスペースになってしまう。そこで、プランB として写真のように中央スウォート真上にブロックぶら下げ、そこでメインシートをダブル(1/2)で引くことを考えました。これは先日船を見にいらして下さった自作先輩Nさんのアイデアです。
スッキリしてて良いのですが、これの欠点は、Jollyhotさん曰く「ブームが持ち上がり風をはらんで、最悪チン」とのこと。金属のトラベラー(カッコいいなぁ)をクウォーター・ニーに渡すことも考えましたが、出来るだけ簡素な艤装にしたいので、とりあえずこれで行くことにしました。
悩みその2:ブーム・バング
このリグではブームはグースネックなどでマストに固定されておらず、パレル・ラインでマストにブームを引っ付けているだけです。ここが動くあるいはマストからブームが離れるのは極力避けたい。ところが、実際にセイルを揚げてみると、ブームの位置がキチンと固定されず前後に動く恐れあり。それを防ぐためにパレル・ライン後端からバング(もどきのライン)をマスト下部に引っ張ることになっていますが、やってみたらブームが前に動くだけ。ここの固定のためには、セール前端のタックから後へ引きさらにバングで下に引いておくことが必要に思われます。
試しに写真のように三角形のラインをマスト下部へ引いてみたらOKのようでした。こうした古い艤装は見たこともやったこともないので、Jollyhotさんに色々アドバイスを貰いつつ試行錯誤をしています。
6-6 ガンネル破損
ガンネル材は米松(ダグラス・ファー)のピーラーと呼ばれる目の詰んだ材です。長い材が入手できなかったため、二カ所でスカーフして使いました。
今日のこと、ポート側のアウトウェルのスカーフ・ジョイントが剥がれてしまいました。少し浮いていた端っこを服にひっかけたのだと思いますが、エポキシの接着がとれちゃうとは初めての経験、多分接着不良だったのでしょうね。クランプで固定しつつビス留めしましたが、他のスカーフ部も念のためビス留めしておきました。
6-7 フェアリードやらブロックやら(4/19)
メインセイルのハリヤードはビレーピンに固定します(単にやってみたかっただけ)。ビレーピンへハリヤードを導くためのフェアリードをマストホール脇に取り付けます。また、ダウンホウルもマストホール脇に引いてきて、後ろへ導きそこのカムクリートで固定します。これらの取り付け場所はスウォート下で頑強に補強してあります。
ダウンホウルはほぼ真下へ、セイルのタックは後方マスト方向へ引くので、これらを一緒しますがそのためのシートはまだ付いていません。
メインシートはスターンのトラベラーを諦め、中央スウォートで引くことにしたので、スウォートに一つブロックを取り付けました。ここの下にも25mm厚の補強材を入れてあるのでビス留めです。
6-8 艤装も大詰め(4/24)
あぁだ、こうだと試行錯誤していた艤装も大詰め、ようやく方法と手段が決まりました。まぁ乗ってみればまた変更することになるんでしょうけれど(実際そうでした)。
まずヤードをマストに引っ付けておくパレルライン。ラインをヤードに取り付けた木製クリップのどこにどのように通したら適当か、セイルを揚げてみて悩んだ結果こうなりました。同じくブームのパレルラインは上側のクリップだけを使い、マストに引っ付けておくことにしました。どちらのラインにも木製ビーズを付けてありますが、これは手芸用(エポキシ防水加工はしてありますが)、きっとすぐに割れちゃうでしょうね。
次は悩んでいたバング(もどき)とタックラインです。パレルラインが前後に動かないようにするためのラインですが、前後のラインを一本にまとめ、ブームを下に引き込む役割もあります。
ダイニーマをスプライスしてブームのクリップに通し、ローフリクション・リングをかませて後ろへ一本で引いています。頻繁に調節するラインではないのでダイレクトにカム・クリートで留めています。こんなシンプルな艤装なのに、どうやったら良いのか悩んでいたので結構時間がかかりました。あとはブームとヤードがマストに引っ付く部分に擦れ止めをしないといけない。ブラスチックカバーを被せるのは統一感がないから、ロープを編み込んでやろうと思っています。
6-9 ダガーボード押さえと浮力体(4/30)
ダガーボードが浮き上がってこないように押さえる工夫が必要。レーザー級だとケース自体がボードの形状をしているので押さえも楽なようですが・・・そこでOPの真似をさせてもらい、ボードの後ろから前へショックコードで押さえつけることにし、一番差し込んだ時はこのショックコードをボードの上に引っ掛けておくことにしました。
ショックコードを引き回し、下向きに引っ張るためセンターボックスにアイを取り付けたいのですが、なにせ合板で出来ている船なのでビスを打てる場所がどこにもない。しかたなくセンターボックス内側に受け木をしてアイをビス留めしました。このアイを使い浮力体も結ぶことにしました(本当はナイロンベルトで留めたいところ、案の定のちに変更することになる)。
6-10 風見(5/4)
艤装であと残っているのは風見。マストトップに既製品を取り付けることにしました。が、取り付け金具を一緒に買うのを忘れていたため、その工作が必要。取り外し可能なように金具をアルミ・アングルで作りました。
さて時間のかかった艤装もこれにてお終いですが、船をマリーナに搬入する前にもうひとつやっておくことがあり、それは船を運ぶトロリー(キャリー)の改造です。用意してもらったトロリーの船台位置に不具合があるので、前方の船台だけ船に合わせて自作することにしました。マリーナでトロリーを実測し、船のサイズに合わせ船台も船から原寸を取りました。
こんな船台をトロリーのバウ側に取り付けます。スターン側は既存船台をそのまま使います。自作しようとしたら、もう余っている部材がほとんどない。いろんな材を寄せ集めて作ることになりそうです。
6-11 進水式を待つばかり(5/8)
艤装もひとまず終了し、あとは進水式を待つばかり。でもそのまえに、和田長浜までミーティングのために船を陸送する予定があり、進水式はそのあとまで待つ必要があります。まぁここで焦っても仕方ないから、のんびりいきます。
進水式に使って下さいと高価なお酒を頂戴しました。一本は隣人からのプレゼントのシャンパン。そしてもう一本は船医殿が下さった『OBAN』、Highland Single Malt Scotch Whisky。酒を飲まずその価値が分からない私ですが、Oban Distilleryの所在地は西ハイランド、その目と鼻の先はヘブリディーズ諸島です。初めて読んだランサムの作品『シロクマ号と謎の鳥』はこの北の海を舞台としていました。そんなことも考えて船医殿がわざわざお持ち下さったのだろうなと思います。OBANとはゲール語(!)で「小さな湾(little bay of caves、醸造所を守る洞窟のある小さな湾)」の意だそうです。
進水式には頂いたシャンパンを景気よく開けたそのあとで、(小分けにした)OBAN Whiskyを船の舳先に注いでやろうと考えています。
6-12 進水祝い(5/19)
進水祝いを送ったからと木造艇自作仲間から連絡があり、今日の午後宅配便が届きました。開封してみたら、なんと「コンパス」!
クルーザーに乗っている時は私がナヴィゲーターなので、タブレットにインストールしてあるナヴィソフト(plan2navi)で現在位置を確認したり、進路を何度と指示したりしています。また、スマフォで艇速と進路(角度)を確認しながら帆走しています。しかし、一人で乗るディンギーではスマフォ片手に帆走という訳にはいかない。そこで、やっぱり我がディンギーにもコンパス付けようとカタログを見ていた矢先でした(目標が目視不能なほど沖へは出ないけれど、現在位置や目標への進路はやはり確認していたいから)。
お祝いにと頂いたのはこれ、コンパスでは評判の高い「SILVA」製のコンパス、小さなディンギーには打ってつけです。
これを下さったお仲間はいずれ「ディンギー・クルージング」をやりたいと言っているだけあって、ディンギーでもコンパスが必要とさすがに良く分かっていらっしゃる。
6-13 陸送(5/20)
進水式の前に木造自作艇の集まりに船を持って行きます。幸いにも1トントラックを使わせてくれる知人がいて、友人二人に手伝ってもらい陸送です。
トラックの荷台に船台に乗せた船がスッポリ納まり(50cmほど飛び出ますけど)斜めに積まずに済みました。マストなどのスパー、セイル、ラダーなどすべてを積み込み、車で30分ほどの海岸にあるビーチハウス前まで運びました。ほんの10m先の海へ浮かべたくなって困りましたが、彼女は進水式前のまだ「ヴァージン」。ここは我慢しておきます。来週末土日にここで皆さんにお披露目し、日曜日にマリーナへ再度陸送します。
6-14 処女航海(5/29)
我が自作木造ディンギー”Nancy"は今日の11時、ヨット部同期、友人、自作仲間などに祝福されつつ進水しました。同期のトシちゃんがウィンド・サーフィン持ってきて伴走してくれました。
緊張と嬉しさで舞い上がっていただけでなく、ディンギーのティラーを握るのは何十年ぶりのことか、そのせいで写真を撮っている余裕がありませんでした。なので一緒に乗ってくれた自作仲間に舵を代ってもらった間にスマフォで撮った写真だけ御覧にいれます。「舵」編集者がたくさん写真を撮っていたから、それをもらえたらまたお見せできるかもしれません。
白状すると、朝方4時まで眠りにつくことが出来ず、22時を回ったところですが眠くて仕方ありません。
これにてディンギー製作記、おしまいです。