書かれなかった2作目
続編は冬のブローズを舞台にしていましたが
"We must think of something really good next year"-Captain Flint (Ransome, Arthur. Swallows and Amazons. p.319. Cape.)
(この書かれなかった続編のことはHardyment, Christina. (1984). Arthur Ransome and Captain Flint's Trunk. Cape.で知りました)
ブローズの冬
1年目の夏休みの終わり、フリント船長はすでに次の休暇の計画を温めているようです。
来年のことで君たちのお母さんに話すことがあるんだ(I've something to say to your mother about next year. (Ransome, Arthur. Swallows and Amazons. p.366. Cape.))
そして「いつか船を借りるんだ」と言っていたフリント船長は、次の冬休み、子供たちのためにノーフォーク湖沼地帯(ブローズ、The Broads)で貨物帆船(ウェリー、wherry)を借りてくれるのです。「ツバメ号とアマゾン号」の続編はこのような物語になるはずでした。
北極からの寒気が入り込むノーフォークは、今でも時に雪のためロンドンとの交通が途絶えることがあるそうですが、子ども達も寒さや雪で船の中に閉じこめられることがあったことでしょう。そんな日には、ティティをはじめとする子ども達はストーブを囲んで「お話つくり」に夢中になったにちがいありません。それはクリスマスの2日後、午後4時にはもう暗くなる冬のブローズ、「ポリー・アン(Polly Ann)」という名のwherryのキャビンでのことでした。
物語を書いたのは誰?
外は深く冷たい霧、ランタンに明かりを灯して食料調達に出たフリント船長の帰りを待っている間、wherryのキャビンで子ども達の話題の中心は『Swallows and Amazons』という本を書いたのは誰だろうということです。自分たちの冒険と出来事があまりにそっくり書かれているこの本の著者をめぐって、意見がたたかわされます。送られた一冊を読んだウォーカー中佐は、それがフリント船長の手になるに違いないし、出来事の半分でも本当ならツバメ達は何度かおぼれて当然だと返事をよこしました。ナンシーの意見では、フリント船長が誰かに喋ったのなら、いつものことで景気のいい話になるし、そうならこの本よりずっと楽しい物語になるだろうというものでした。
そこで「フリント船長にお話をさせましょうよ」とティティ、「あら、なんで私たちがやらないの」とナンシー。でもお話を語って聞かせることにかけてはフリント船長の方が上なので(ランサム自身が上手な語り手であったように)、語りはフリント船長にまかせて、子ども達が出来事を考えることになります。
お話を作る
誰かが自分たちのことを書いたのですから、今こうして冬のブローズにいることもその通りに書くかも知れません。それでツバメ号のようなディンギーではない外洋帆船、正反対の季節が選ばれました。船はスクーナー、季節は初夏5月。でもスクーナーの名前は決まらず、その夜ベッドでティティは見たことのある帆船の名前を一つ一つ思い返すうちに、眠りに落ちていくのでした。
船の名前が決まったのは翌日、ピーター・ダック老人がミルクの缶をさげて乗船してきたときでした。彼曰く「あんた達のことを書いた本に地図があって、そこに『ヤマネコ島』があったじゃないか」それで決まりです。今日も霧、でもダックさんの予想では霧は晴れて、風が東から寒気を連れてくるだろうとのこと。「ポリー・アン」が氷に閉じこめられるのを恐れ、フリント船長とダックさんはwherryの巨大な黒い帆をあげ、船を安全な場所へ移動させるのでした。
こうして、作品は子供たちがいる冬のブローズと夏のカリブ海が交錯する複雑な構成になるはずで、1作目ほどにはリアリティーに富んだものではありませんでした(indirect one, not so realistic. 1931年1月12日付の手紙)。その概要はできあがっていたものの、Capeと米国版の版元Lippincottが早く次作を欲しがったため、ランサムはこの込み入った物語を断念し、1931年1月には湖を舞台にした2作目にとりかかり、これは「ツバメの谷」となってその年のクリスマスに世に出ます。そして「子ども達が作ったお話(thier own story)」であるカリブ海宝捜し大航海が書かれるのは、ランサムがシリアのアルトゥニアン家を訪問する1932年まで待たなければなりませんでした。それは3作目「ピーター・ダック」として、はじめてランサム自身の手になる挿絵が添えられて出版されるのです。