Dinghy造って海へ出よう
アマゾン号を探して
ランサムの本に刺激されアマゾン号を手に入れたいと思う人がまず参考にすべきはMr. Stuart Wierのサイトでしょう。そこにはアマゾン号みたいな船の入手法から建造法まで詳しく述べられています。確かにこんな船で帆走するのは良い気分でしょうね。
しかし感傷的になるのをちょっと抑えて、そんな船が見つかったとして果たして本当に実用的かどうか。冷静に考えてみれば、クラシックなクリンカー張りの船は重く運搬するのが大変でしょう。それに帆走性能は現代のディンギー並とはいかないでしょうし、湖で帆走するのならばいざ知らず、沈したら浮力体のない船は完全な水船になってしまいます。
求めるディンギー
ディンギーのレースから遠ざかって久しく、水中翼(foil)でかっとんでるFlying Mothにはもう乗ろうとは思わない私にとって、求める船はアマゾン号みたいな味わいを持ちながら海でノンビリ帆走できる船です。
- 木造艇:マホガニーのクリンカー張りとは言いません
- 高い一次安定性:でも平底船ではないカッコ良い船
- 多少吹いても濡れないですむ比較的高いフリーボード
- セールの上げ下ろしが容易なリグ
- 運搬が容易で砂浜からも出帆できる軽い船
- 2人で(可能ならイヌと一緒に)海での帆走を楽しめる本格的ディンギー
木造ディンギーを探して
木造ディンギーを探してネットの海を漂ってみました。その気になれば今でも木造艇を見つけることはできるものの(国際A級ディンギー、伝統工法によるクリンカー張りだって海外では造っています)、実際に海で帆走を楽しむとなると単に木造艇と言うだけでは踏み切れない。やっぱり見た目の好みもありますし、僅かなヨット経験からこういう船が良いという思いこみもないわけではありません。それに、もちろんお値段も。
やっぱり自作
求める船の条件としては、
- 全長:10ft(3.0m)から12ft(3.6m)
- 重量:60kg未満
- リグはガンターリグもしくはガフリグ
- センターボードもしくはダガーボード
- S&G工法(あるいはGL工法)による木/エポキシ コンポジット製
- ラウンド・ハルにはこだわらない(シングルあるいはマルチ・チャインのハルでもOK)
- オープンデッキで、安全のための浮力体(気密隔壁)を備えていること
- カッコ良いこと
いくつか候補を絞りました。
- Selway FisherデザインのTODAY。設計図を購入し、ガンターリグへの変更、セール入手について問い合わせたら設計者Paul Fisherご本人から親切な返事をもらいました。
- John WelsfordデザインのTruant。その名の通り、学校(仕事)サボって遊びたい人のために設計したという船です。
- Selway-FisherデザインのCobles。北海で漁をした船を原型にSelway-Fisherが現代工法で設計した船です。
- Swallow BoatsによるTrouper。クラシックなスタイルをS&G工法で軽量に実現した船です。
候補その1:Selway-FisherのTODAY
Sailing Today誌の自作記事として依頼されSelway-Fisherが1999年にデザインしたディンギーです(命名の仕方がMirrorと同じですね)。基になったのは同じくSelway-FisherのHighlander 11で、バウとボトム形状を若干変更しており、そのガンター・リグを使うことも可能です。
- 全長:11'(3.36m) 全幅:5'2"(1.57m)
- 重量:125lbs(57kg)
- ダガー・ボートあるいはセンター・ボード
- セール面積:65sq.ft(6.05sq.m)
Selway Fisherでは基本設計が同じ11ftのディンギー・シリーズを何ハイか設計しています。それぞれに個性がありますが、少しの変更を加え改良を積み重ねる方針には賛同できます。設計図だけ見ていてもイメージがはっきりしないので、1/10スケールモデルを造ってみました。
180mmと狭く平らなボトム・パネルを挟みこんでセンターケース(オールなどの収納にもなる)があり、それにフレームが直交し堅固な構造となっています。この写真だけ見るとまるで模型飛行機の骨組みのようです。
左右6枚のパネルからなる船殻は3つのチャインを持つV字型をしており、11ftにしては広い全幅を持っており、スターンにかけては余り絞り込まれていません。
比較的フリーボードは高く、コロッとルーミーな形をしています。これより300mm長いA級ディンギーは幅が150mm狭く、もっとスムースなハルをしていますのでクラシックな感じを与えますが、このTODAYはずっと現代的な印象です。基本はダガーボードを備えたガフリグです。センターケースは収納や浮力体の役目も果たすのですが、ちょっと邪魔ですから撤去しても構わないと書かれているものの、強度的にはあった方が良いでしょう。
海に出るディンギーとしての帆走性能を重視したためクラシックな趣から少し外れてしまいました。アマゾン号のナンシー船長なら「こんなの帆船じゃないわ!」と言うかも知れません。
候補その2:John WelsfordのTruant
ニュージーランドのデザイナーJohn Welsfordの手になるこの小さなディンギー、Truant(怠け者、サボリ屋、ずる休み)とはなんて名前だろうと思いますが、こんな船で仕事サボって海に出たらいいでしょうねぇ。サイトにはこう謳われています。
''The most fun you can have without getting wet.''
- 全長:3.5m、11ft 6in
- 全幅:1.63m、5ft 4-1/2in
- 重量:70kg、154lbs
- セール面積:7.15sqm、80 sqft
「咆える40度帯(roaring forties)」に位置するニュージーランドだからでしょうか、このクラシックなディンギーの頑丈そうなこと。
- 高いフリーボードと広いデッキ
- 両サイドと前後に備えられたエアータンク
- 広いビームと小さめのセンターボート
こうした特徴はどんな天候でも濡れず、沈の心配をしないでセーリングを楽しむことが出来るでしょう。(スタディプランだけ借用させてもらいます)
比較的小さな船なのでWoodenBoat誌では「男の子と父親が一緒に造るのに最適」と述べられていました。女の子(Vanessa)だってお父さんとこの船を造っていますよ。彼女のブログでは自作したTruantを見ることができます。また、このFlickerでは建造過程の詳しい写真を見ることができます。ニュージーランドのWoodenboat.net(旧サイトのURLが無効となっています)ではそのリビューにこんな一節を読むことが出来ました。
歳とってカヤックで海を行くのがしんどくなったら、人生の次の伴侶はこの船だね
いいセリフだなぁ、まさに自分のための船のように思えます。でも・・・このディンギーの工法はGlued Lapstrakeと言えます。工程簡素化のためにモールドを使用しない工法が考えられていますが、それでもS&Gよりは手間がかかりそうです(やり甲斐はありますが)。フレームにストリンガーを走らせ外板を張っていますし、デッキを張るために多くの補強材(doubler)が使われているので艇重量が70kgに達しています。S&G的改造を施しもっと軽量に造る可能性はあると思うのですが、恐らくこの重量も荒れた海を行く船にとって必要なキャラクターに違いありません。ともかく大変魅力的な船であるのは確かです。
候補その3:Selway-FisherのCobles
英国北部東海岸、石ころだらけの海岸や遠浅な砂浜から北海へ漁に出るために使われてきた(working boat)のがCoblesと呼ばれる船です。その特徴は、
- 高い船首フリーボード
- 弓なりに優雅なカーブを描くシアーライン(reverse sheer)
- タンブルホーム(舷側の内方傾斜、tumblehome)
- 大きく傾斜したトランサム(raked transom)
などが挙げられます。いかにもクラシックなこの船をS&Gで再現しているのがSelway-FisherのNorthumbrianシリーズです。
- 全長:10'6"、3.2m/12'6"、3.81m
- 全幅:4'3"、1.3m/4'11"、1.5m
- セール面積:47 sq.ft.、4.34 sq.m/86 sq.ft.、8.04 sq.m
- 艇重量:75 lbs、34 kg/120 lbs、54.42 kg
この船の製作記はいくつかのサイト、ブログで見ることができます。
設計図あるいはキットは以下から入手可能です。
幅広の船幅にもかかわらず、優美なバウ・ライン、細く絞られたスターン、傾斜したトランサムなどこの船の魅力はなかなかのもので、きっとジョン船長もナンシー船長も文句は言うまい。(SFDからスタディ・プランを拝借しました)
大きさなどの制限がなければこの船を造りたいところです。
候補その4:Swallow BoatsのTrouper
ウェールズ西海岸Cardiganに近い河口にあるSwallow Boatsが設計、製作販売している最小のクラシック・ディンギーがTrouper(改訂されたサイトにはこの船は見当たりません)です。
- 全長:12ft (3.66m)
- 全幅:5ft 4ins (1.63m)
- 艇重量:115 lbs (52kg)
- セール面積:59 sqft (5.5sqm)
カートップ可能な軽さを求め、厚みの異なるマリン合板をS&Gしてマルチチャイン・ハルを造っていますが、12ftという全長にもかかわらず左右+前後の浮力体、そしてアンカー格納場所まで備えています。わずかなタンブルホーム(tumblehome)の船体はとても優雅で、湾曲させたトランサムもクラシックな味をだしていますが、こうした凝った構造にもかかわらず艇重量は52kgしかありません。製作過程写真を見ると軽量化のための工夫が散見され、S&Gによる軽量マルチチャイン・ハル艇のお手本のように見えます。
完成艇は£5995(約\720,000)もしますが、キットもありますし、運送費(と製作費)節約のためにフル・キット以外にハル用木材だけのキットにも応じてくれるとあります。またオーストラリアに代理店があるためこちらから輸入した方が運送費が安く上がるかも知れません。
このSwallow Boats、classic looks, modern performance, innovative design と謳っている通りその船は素敵なものばかりです(日本の海に似合うかどうかは別として)。そのうちの1パイ(デイ・ボート)を富士五湖のどこかで浮かべている方の記事を『舵』で見たことがありますが、日本のRice Marineが代理店になっているようでここからこの船のブローシャーを入手できます。キットを購入したいと問い合わせたら、お幾らだろう?